第22回 日本精神医学史学会ー西南学院大学

日本精神医学史学会の第22回が西南学院で開催されます。年月日は2018年11月10日と11日。特別講演、会長講演、二つのシンポジウムは以下の通りです。

 

特別講演

Emmanuel Delille (フンボルト大学

「制度的収蔵資料とエゴ・ドキュメントー精神医学史のインターナル/エクスターナル・アプローチのアーカイブによる超克のために」

 

会長講演

北垣徹(西南学院大学

「動物磁器論から催眠論へ―メスメル、ピュイゼギュール、ベルネーム」

 

シンポジウムI

「精神医療史とアーカイブズ―診療録等の保管と研究利用の現状」

後藤基行(日本学術振興会)、高林陽展(立教大学)、廣川和花(専修大学)、中村江里(日本学術振興会)、清水ふさ子(慶應義塾大学

 

シンポジウムII

「狂気内包性思想をめぐってー哲学、宗教、芸術」

内海健東京芸術大学)、大澤真幸社会学者)、加藤敏(小山富士見台病院)

 

また、後藤君が中心になって、九州大学医学部や『ドグラ・マグラ』に関係があるものの展示も行うとのこと。「医学史」という学問を、どのディシプリンの誰が行うかなど、さまざまな意味で重要な学会です。みなさま、ぜひ訪れてください!

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モノと画像の事典

Barnett, Richard 京子 中里. 描かれた病 : 疾病および芸術としての医学挿画. 河出書房新社, 2016.

Barnett, Richard 京子 中里. 描かれた手術 : 19世紀外科学の原理と実際およびその挿画. 河出書房新社, 2017.

Barnett, Richard 描かれた歯痛 : 白と黒、および神経からなる歯科医療挿画. 河出書房新社, 2018.

平凡社. 日本史モノ事典. 新版 edition, 平凡社, 2017.

平凡社. 世界史モノ事典. 新版 edition, 平凡社, 2017.

 

日本史モノ事典と世界史モノ事典は、手元にあるといい。どちらも医学や医療に関してはほとんど載せていないが、何かを調べてはふと熱心に読んでしまう。それと少し似ていて、医学史のモノ事典というか、人体とモノの事典とでもいうのが、河出書房新社から連続もので出ている Richard Barnett の三巻本である。これが日本のフォーマットに載せた医学史かなという気がしている。絵がいっぱいある面白い画集とたくさんの歴史情報ですよ。

 

 

喫茶養生記

陸羽 他 茶経 . 喫茶養生記 . 茶録 . 茶具図賛. 高橋忠彦訳注. 淡交社, 2013. 現代語でさらりと読む茶の古典.
 
喫茶養生記』は苦手な本の一冊である。苦手だから読んでないという恥ずかしい本は数えきれないほどあるが、『喫茶養生記』は何回か現代語訳を読んだことがあるが、それでもわからないという別種の恥ずかしさを持つ本である。私が茶道をしないことや、中国医学がよくわかっていないこと、仏教の思想にも弱いことが、喫茶養生記が苦手な度合いが高まっている理由であろう。 特に、前半がお茶の医学上の効果の話をしているのに、後半は桑の医学的・宗教的な効果の話をしているのに、タイトルが喫<茶>であって桑はどうしたというのは謎である。
 
その中だが、私が頼りにしているのが、この新書本の現代語訳と解説である。この本がどんな本で、どんなヴィジョンであるかが、きちんと説明されている。基本は末世への対策であり、五臓の中心である心臓を茶の苦みで強め、鬼魅が原因である流行病を桑で抑えることであり、それらの植物を世界の文明の先端であった中国の浙江からとったというのである。「五臓の主たる心臓の強化には、苦みを主とする茶の摂取が必要だという主張と、流行病の治療には、その原因の鬼魅が嫌う桑の利用が有効だという主張がそれぞれ述べられているわけです。茶と桑がともに浙江で多く生産されていた植物であることも、このような書物になった理由なのでしょう。茶にせよ桑にせよ、栄西は一貫して、病気の治療や健康の維持といった<養生>の手段として力説しているのであり、いわゆる喫茶趣味を述べていないことは確実です。」
 

医学史と社会の対話ー優れた記事の紹介⑧

igakushitosyakai.jp

埼玉大学の佐藤雅浩先生の記事。戦後の日本において神経症という現象を思い出させた大きな事件に、阪神淡路大震災地下鉄サリン事件などといったものがありました。これらの事件が、日本に神経症を初めて作ったわけではもちろんありません。しかし、日本が近代の過去を振り返る重要な契機を作り出しています。それを鮮やかに分析した『精神疾患言説の歴史社会学』(2013)を現した佐藤先生の記事です。ぜひお読みください!

フランスとイタリアの女性評議員の多さについて

日本で女性が軽視されている重要な指標が、女性評議員や女性重役の数が少ないことを上げるのが一般的である。エコノミストエスプレッソによると、G7の諸国家で比べると非常に低い。日産やトヨタが女性の社長や重役を雇用したとのニュースが入り、安倍首相が女性が「輝くため」のとか稚拙な言葉を使っているけれども、サウジアラビアとかそういう国家と同じくらいである。

それはわかっているのだけれども、いつも見る日本が異質に低いグラフを見ていて、フランスとイタリアというラテン系が高く、ドイツ、イギリス、アメリカ、カナダといったイギリス・ドイツ系列が低いということに気がついた。フランスはドイツのほぼ2倍ですよ。これはいったいなぜなのだろう?

もっとも、日本はフランスの8分の1、ドイツの4分の1と、悲しいくらい低いことに目が行くのは事実なのですが(涙)f:id:akihitosuzuki:20180627063756j:plain

医学史と社会の対話ー優れた記事の紹介⑦

igakushitosyakai.jp

 

大手前大学の尾崎耕司先生の記事。書評と史料の読み取りを合わせて取り上げた優れた記述です。史料はどう読むのか、偉大な先生たちの考えとどう向き合うのか、どのような新しい著作を書くのか、そしてどのような意味を新しい著作に与えるのか。歴史学の考え方を医学史の考えに収めると同時に、新しい医学史の位置づけをさぐった記事です。どうかもう一度お読みください!

コーヒーの原種の「ゲイシャ」について

土井珈琲の6月号の案内を読んでいて、コーヒーの原種の名称が「ゲイシャ」であることを知り、まさか日本の「芸者」にちなんだ命名だろうかと思って調べたら、そうではなく、エチオピアの村「ゲシャ」(Gesha) にちなんでいるとのこと。ただ、英語のスペルで Geisha が採用されているのは意味があるのかもしれない。2004年にパナマエスメラルダ農園がゲイシャの栽培と本格的な出荷に成功した。史上最高の額で落札され、一杯2,000円以上の価格で提供したカフェもあったという。

面白い点は、この原種の特徴についてである。もともと、原種のコーヒーは気候の変動や病毒にことさら弱い。現在生産されているコーヒーのほとんどは、品種改良によって人工的に生み出されたもので、強靭なものである。しかし、このような人工的なコーヒーの生産は、原種ではないコーヒーを生産する近代に起きた現象である。

コーヒーの原種がいつ飲まれていたかはよくわかっておらず、エチオピアでコーヒーの実を食べたヤギの行動を観て云々とかいう話も逸話である。11世紀にアル・ラージーが記録し、1500年近辺にはアラビア半島で飲まれている。もともと qahwoh というスペルで、これはワインの意味。イスラムスーフィー派が、宗教時の儀礼を理解してワインが供される場で出すことに気づいたからという説があるとのこと。これは、カフェインが持つ特質のおかげで、起きて祈りに捧げる時間を延ばすことができることと関係あるとのこと。この部分の記述は、栄西喫茶養生記』が記す茶の素晴らしい覚醒的な効果にも似ている。

 

Kiple, Kenneth F. and Kriemhild Coneè Ornelas. The Cambridge World History of Food. Cambridge University Press, 2000.

Davidson, Alan et al. The Oxford Companion to Food. 2nd ed. / edited by Tom Jaine edition, Oxford University Press, 2006.

古田, 紹欽 and 栄西. 喫茶養生記. vol. [1445], 講談社, 2000. 講談社学術文庫.