日本のヒステリーとジェイムズ・ボンドの翻訳

日本の<ヒステリー>という概念が、多分複雑に構成されていて難しい。

ヒステリーは、ヨーロッパではヒポクラテスプラトンの古典古代の昔から、若い女性の疾患である。性欲が高まり子供を妊娠したいと思っているくらいの若い女の子宮が体内を動いてさまざまな症状が出るというのが一つの典型像である。もともとヒステリアという言葉自体が子宮という意味である。この概念が発展して19世紀には一大ブームになったことは有名である。19世紀から第一次大戦期になると、鉄道神経症や数万人の戦争神経症の概念が現れて、男性もヒステリーになっても良いことになった。

この時期の日本のヒステリー概念と診断と文化的な用法は、もちろん欧米の影響にある。医者たちであれば、男性に使ってもいいことも知っている。私が見ている20世紀前半の精神病院の診断では、ヒステリーという診断を受けた患者全体の5%くらいが男性である。男性ヒステリーは第一次大戦期の後は日本の医師も積極的に使っていた。

日本に特殊な現象は、中年の女もヒステリーになるという用例である。文化においても中年女のヒステリーという概念と言葉は通常に使われている。20世紀後半になっても、この利用はしっかりと残っている。イアン・フレミングの『サンダーボール作戦』でも、中年の女が怒ったり泣いたり叫んだりした時に男がどう反応するかを「中年女がヒステリーを起こした時」と訳している。英語のオリジナルは when a middle-aged woman makes a temperamental scene である。中年の女性がある心理的に激しい行為を見せることを、ヒステリーというのは日本語だけである。

 

地図を使えるようになりたい(笑)

Isis の最初の論文は、ロシアからやってきた研究者たちが計量的な論文を書き、時系列と地図上の空間をうまく使っている。古典古代の自然哲学の著作で新しい発見が行われた時系列と空間をグラフと地図を使って説明するものである。アテネからアレクサンドリアに中心が移るありさまを地図で表現するなんて、おしゃれだなと思う。このような手法を使えるようになろうと思いながら10年以上が経過してしまいました。ううむ。

 

"Ancient Greek Mathēmata from a Sociological Perspective: A Quantitative Analysis", 
Leonid Zhmud and Alexei Kouprianov.  
Institute for the History of Science and Technology, St. Petersburg

National Research University–Higher School of Economics, St. Petersburg

 

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アヤ・ホメイ先生の真菌症の歴史の著作の書評です!

https://www.journals.uchicago.edu/doi/full/10.1086/699474

Volume 73 Issue 3 | Journal of the History of Medicine and Allied Sciences | Oxford Academic

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マンチェスターで教えられるアヤ・ホメイ先生が、先生であられたマイケル・ウォーボーイ先生と共著で書かれた著作が書評されました。 2013年に刊行された書物ですが、刊行から5年の期間を経て二つの雑誌で書評です。Isis と Journal of the History of Medicine and Allied Science 。AmazonKindle では無料で提供されています。私のアカウントに障害があり、なぜか買えないようですが、解決されたら買っておきます!

私はまだ本文を読まなかったのですが、書評を読んで渋さと重要さを久しぶりに思い出しました。 Fungal diseases は、真菌症と訳されるとのこと。JHMAS によると「医者にも歴史学者にもあまり目立たない感染症」で、バクテリア、ウィルス、プリオンなどで起きる疾患ではなく、「真菌」に分類されるものによって起きるとのこと(このあたり、私が苦手なところです)。具体的に名前を出すと、白癬(水虫、たむし、しらくも)、カンジダ症、クリプトコックス症、アスペルギス症などであるとのこと。たしかに、とても面白い内容になると思います。少年時代の水虫のTVCMなどが懐かしく思い出されます。

日本の医師のバーンアウト

医学書院/週刊医学界新聞(第3295号 2018年10月29日)

 

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週刊医学界新聞での特集は、日本の医師のバーンアウトの特集。日本の医師にもバーンアウトがあることは多くの方がご存知だろう。アメリカや中国においてもバーンアウトが存在し、中国の脳神経内科医7,000人近くに聞いてみたところ、58.1%が医師になったことを後悔しているとのこと。多くの国際的な国と同じように日本も対策しなければならない。そして、日本においてプラスとマイナスの双方な特別な指標なども知りたいところである。村木厚子さんも『日本型組織の病を考える』という新刊書で、日本の特徴は「本音と建前」であって動きが遅いという話をしているとのこと。これも読んでおこう。

症例誌をどのように書くかによる臨床リサーチの実践ー1920年代ベルリン精神科病院より

h-madness より。Isis の最新号に精神病院のカルテから臨床リサーチがどのように行えるのかということを議論した論文があるとのこと。ちょうど週末に届いた最新号を実際に読んでみたらドイツのベルリンの精神病院の症例誌の構成を研究した議論。実際に症例誌が精神病院の臨床や事務のオフィスのどこにどのように置かれ、それらがどのように見られ、どのように特定の情報が記入されていたかを再構成した論文(だと思います)。実際、さまざまな症例誌のパターンを見ると、何を観察してどう管理するかが書式によって変わってきます。19世紀のイギリスの公立精神病院になると、公務をした記録が分断された書類に散らばっているのに対し、20世紀の東京の私立病院では、家族の経験がそのまま書かれるケースもあります。20世紀の帝国大学では、また異なった視点で組まれています。とても面白い、情報の臨床現場でのデータの力学になる議論です。

今週の福岡の精神医学史学会でのシンポジウムの主題の一つになると思います。みなさま、ぜひお読みになって、福岡の精神医学史学会にご参加ください!

 

The following article in Isis 109:3 (2018) may be of interest to h-madness followers.

A Paper Machine of Clinical Research in the Early Twentieth Century, by Volker Hess

This article introduces Turing’s idea of a “paper machine” to identify and understand one important mode of clinical research in the modern hospital, how that research worked, and how office technology and industrialized labor shaped and helped drive it. The unusually rich archives of Berlin psychiatry allow detailed reconstruction of the making of the new diagnostic category “hyperkinetic syndrome” in the 1920s. From the generating of data to the processing of information to the visualizing of the nature and course of the new syndrome in the lives of more than sixty patients, this case study shows how clinical research could be based on the apparatus of the clerks’ room (folders, registers, inventories, and the dispatch of documents), office technologies (new filing systems, preprinted forms, and duplicating machines), and the principles and paper practices of the division and rationalization of labor (charts organizing worktime in complex organizations). The result is an important example of clinical research embedded in the broader history of office technology, industrial labor, and the modern hospital.

 

1980年代のカリフォルニアの農業労働者のサイコジェニックな流行病

Kurz, Peter and Thomas E. Esser. 1989. Journal of Occupational Medicine. 31, 4: 331-334.

1980年代にカリフォルニア州において、農業労働者が集団サイコジェニック神経症流行を経験した事件の報告である。無関係な3件の事件である。それぞれ患者の数は、4人、12人、45人の集団発生。神経症の症状を示し、身体的な原因は何もない。いずれの事件も、殺虫剤をヘリコプターなどが撒いたのちに労働者たちが集団で不調を訴えるというパターンであった。ことに、殺虫剤を大量に散布したのちの労働は、bona fide fear というべき現象であり、労働者が大きな不安を持ち、それが集団的な神経症になることは納得できる。また、マスメディアも殺虫剤に関して鋭い関心を持ち、場合によっては鋭すぎる関心を持つケースもあった。性別に関しては、女性が圧倒的に多かった。もう一つ、面白いことが、殺虫剤の臭い odor が重要であった。臭いの仕事、一度やってみたかったのです。

 

 

精神医療の文書の歴史

 
h-madness からの連絡。精神医療の歴史を語るときの文書に関するフレッシュな議論が出ています。イギリス、アメリカ、カナダ、ニュージーランドなどの第一線の研究者たちの論考です。アクセスできない期間があって読めないかもしれませんが、冒頭のイントロは無料DLできます。日本の精神医学史学会でも、11月の学会で、精神医療の文書についてのシンポジウムも開かれます。みなさま、英語圏の議論と日本語の文書についての議論をお楽しみください。日本語の学会は以下のとおり、Rethinking History は以下のとおりです。
 
大会長:北垣 徹(西南学院大学文学部)
会 期:2018年11月10日(土)~11月11日(日)
会 場:西南学院百年館(松緑館)
 
 
 
The latest issue of Rethinking History is a special issue about “bureaucracy, archive files and knowledge production”. Most articles deal with psychiatric asylums, real and imagined, and their creation of knowledge and lettered paper:
 
Sally Swartz, Asylum case records: fact and fiction
 
Volkes Hess, Bookkeeping madness. Archives and filing between court and ward
 
James Dunk, Work, paperwork and the imaginary Tarban Creek Lunatic Asylum, 1846
 
Barbara Brookes, Papering over madness: accountability and resistance in colonial asylum files: a New Zealand case study
 
James Moran, A tale of two bureaucracies: asylum and lunacy law paperwork