閉じ込め症候群の現象学的解釈について

www.theneuroethicsblog.com

何度も日本にいらした医学史家である Fernando Vidal 先生による記事。ピアジェの研究、SF映画における医療の研究、そして近年は LIS の研究をしています。Locked-in Syndrome は「閉じ込め症候群」と訳すようです。医学書院の『医学大辞典』は濱田秀伯先生によるとても読みやすい項目。

上位運動ニューロンの両側障害により、顔面や四肢が麻痺し発語不能な状態。一見、無動無言症に似ているが、本質は意識障害ではなく運動障害で、大脳機能の身体表現が制限され「閉じ込められた」状態のためにこの名がある。睡眠リズムは保たれ、まばたきや垂直方向の眼球運動による意思疎通は可能である。脳幹腹側の広範な病変で生じ、多くは脳底動脈の梗塞、稀に橋出血や腫瘍による。

ジョウビタキが来ました!

10月初めの台風で倒木したレモンの木。今日やっと片付けました。太い木を切り倒し、地中の根を引き抜き、その周りを少しきれいにしました。

ジョウビタキが庭に来ました。オスとメスが一羽ずつ。オスは少し小ぶりの感じ、メスはもともといたモズに追い払われたりしていました。メスの写真です。そのほかにも、最後のバラ、ドウダンツツジの実、そして水を飲むひらりねこです。

 

f:id:akihitosuzuki:20181103100914j:plain

f:id:akihitosuzuki:20181103101110j:plain

f:id:akihitosuzuki:20181103101357j:plain

f:id:akihitosuzuki:20181103102112j:plain

クレティンの語源はクリスチャンであるという説

blog.oxforddictionaries.com

 

オクスフォードのウェブ上の英語辞典の今週のコーナーのクレティニズムの説明がものすごく面白い。ジェンダーの話、トランプの nationalist の話、ロシアや中国の金満家の話なども面白いが、クレティニズムの話にはかなわない。

クレティニズムというのは現在でも比較的多く存在する疾病である。新生児甲状腺機能低下症と訳し、クレチン症とも言う。日本では、20世紀の後半からの新生児のスクリーニングをはじめ、およそ3000人に1人の割合で存在した。新生児の段階で発見して、甲状腺機能を補う治療を行うとよく効くとのこと。発展途上国などでは新生児の段階での発見ができないから、かなりの患者が存在してしまう。Wikipediaの項目の世界地図を見ると、アフリカと地中海世界が非常に高い。

このクレティンという語は18世紀にフランスで現れた。もともとスイスでよく発見され、スイスの言葉がフランスで使われ、そこから各国にわたった。問題は「クレティン」という語の意味である。これはキリスト教徒という意味の Christian で、神が作った人間であり、動物とは対比される。すると、クレティンのようなかなり重篤な先天性の障害を持つ患者でも、動物ではなく人間であるという意味になる。「人間だから」という説明は、差別的な説明にもなるだろうし、美しい説明にもなるのだろう。それ以外にも語源の説明があり、チョークを意味する creta と顔色の類似だとか、被造物を意味するとか、あるいはそんな患者が現れそうな土の状態を意味するなどがあるとのこと。

『科学史研究』最新刊の医学史に関連する記事

日本科学史学会の機関誌『科学史研究』の2018年57巻no.287号に医学史関連の記事が二つ。一つが 任正爀 先生による「朝鮮医学史研究の近年の動向について」。任先生は一流の医学史家であり、優れた日本語の業績でも知られている。申東源先生の『コレラ、朝鮮を襲う: 身体と医学の朝鮮史』(法政大学出版局, 2015)を日本語に訳して業績である。今回の記事では、韓国での新しい医学史の発展を描いている。

もう一つが立教大学の高林陽展先生の著作『精神医療、脱施設化の起源―英国の精神科医と専門職としての発展 1890-1930』(みすず書房、2016)の書評である。住田朋久君という、科学史を学んで東大出版会の優れた編集者となった若手による書評である。

いずれも楽しい記事です。ぜひお読みください!

ユスティニアヌスのペストと文書史料とDNA史料

Gruber, Henry. "Indirect Evidence for the Social Impact of the Justinianic Pandemic: Episcopal Burial and Conciliar Legislation in Visigothic Hispania." Journal of Late Antiquity, vol. 11, no. 1, 2018, pp. 193-215.

 

ペストの第一回のパンデミックと呼ばれている大流行は、ユスティニアヌスのペストなどとも呼ばれ、6世紀中葉から8世紀くらいまで継続している。文書の史料として著名なものはプロコピウスの『戦史』の1章にわたる丁寧な記述であり、医学史上の価値が非常に高い記述である。それ以外の文書の史料は少ない。一方で、DNA史料は次々と発見されている。私にはこの原理がわかっていないが、ペスト菌の痕跡を示す人骨の方は各地で次々と発見されている。これらの地域では文書史料が存在しないことが多い。これは仕方がない部分もある。

しかし、DNA史料の発見だけで疾病史が進むという状況はちょっと微妙なところである。そこで、この論文が面白いことを言っている。別の文書を使ってみればいいということである。疫病があって大量の死があったとか、その疫病では内ももの鼠径部に膨らみができたとか、そのような言及がなくていい。別のタイプの史料、ここではキリスト教の司教の埋葬の記述を使うことができるという主張である。もしこのような史料を使うことができるのなら、研究が面白く発展するだろう。