アルフレッド・ジャリと「パタフィジックス」と精神疾患
『グロテスク』などの復刻資料ー性と薬学
叢書エログロナンセンス 第Ⅰ期 グロテスク 全10巻+補巻 - ゆまに書房
ゆまに書房の方が『グロテスク』『文藝市場/カーマシャストラ』『談奇党』『猟奇資料』などの復刻資料のパンフレットを置いてくださった。とても面白い雑誌である。どの程度深くかかわっていたかはわからないが、法医学や精神医学でいうと、浅田一や杉田直樹が、童貞論や性的倒錯を論じている。また、薬や薬学も『グロテスク』などに確かな存在がある。強精剤、アヘン、幻覚などについて論じている議論も多く掲載されている。薬や薬学というのは、医学史を勉強する中で、初めて一つの論文にふさわしいだけの勉強をする主題であり、いい機会になる。
『チューリップ・フィーバー』
午前中に映画を観てきた。『チューリップ・フィーバー』という17世紀のアムステルダムがチューリップ・マニア(英語では tulip mania) となった時の人々を描いた映画。 たまたま私の仕事で18世紀のオランダの医学史の部分を書いたりしたこともあって、とても面白かった。医学史的に言うと、産婆と男性産科医とペスト流行のときに何をするのか、わりと正確に背景が描いてあって面白い。 そのような医療制度と公衆衛生制度の条件ではじめて成立する。チューリプ・マニアの描き方も、花の新種に経済と契約を通じて熱狂する様子で、映像ではじめて観たけれども、とても面白い。経済と狂熱と酒と売春と喧騒の毎夜で、そうなんだろうなと思う。18世紀のイングランドの南海泡沫も似たような感じだったのだろうか。
もう一つ、一番面白かったのが、チューリップ・マニアが終わったからと言って、オランダのすべてが崩壊して二度と帰ってこなかったわけではないというメッセージである。マニアが終わって、経済と性の狂熱が自らの社会を崩壊させる。家庭での余分な権威、性の情熱への過剰な欲望も、その間違いを自らさとる。そして、それから8年後には、いつものような普通の生活が帰ってきた様子が描かれて終わる。この部分がとても面白い。自分が数パラグラフだけ描いている18世紀のオランダについて、自分たちが17世紀に何をしたかを分かっていたということを少し想像した。
最後に、tulip fever という表現。もともとのオランダ語では tulpenmanie であり、そのまま英語風にすると tulip mania になる。ドイツ語でも tulpenmaia でいい。しかし、この映画の原作は tulip fever である。mania から fever へと移行するという動きが英語圏などでも起きているのだろうか。ここはわりと興味がある。ディメンティア・プラエコックスの訳である早発性痴呆、スキゾフレニアの訳である精神分裂病という診断名が廃止されて、統合失調症となるという日本の決断があったが、その流れで、チューリップ・マニアからチューリップ・フィーバーになるのだろうか。
アメリカのワクチン注射後のネガティヴ効果
https://www.cdc.gov/mmwr/preview/mmwrhtml/mm5717a2.htm
Sutherland, A. et.al., Syncope After Vaccination --- United States, January 2005--July 2007, MMWR, May 2, 2008 / 57(17);457-460.
2005年から2007年にかけての新しいワクチン導入にともなって思春期の女性のネガティヴな症状が増えたこと。疾病の名前で言うと、子宮頸がん、髄膜炎、破傷風・百日咳・ジフテリアの三種混合。このワクチン注射後の syncope が増えたが、その後の深刻な効果はまれにしか起きていない。細かい区別などは後から勉強しよう。サイトに行くと以下の表とグラフを見ることができます。
新企画:健康の歴史とエコロジーです!
https://www.upress.pitt.edu/series/histories-and-ecologies-of-health/
香港大学のロバート・ペッカム先生から新しい出版企画のおしらせ。ピッツバーグ大学から「健康の歴史とエコロジー」というシリーズの出版です。日本の状況は、福田先生、脇村先生、飯島先生、廣川先生、高林先生などの研究に基づいた優れたものが多く、英語の豊かな文献と融合させると、素晴らしい水準の研究になります。ぜひそれを目指してください!