「図書館情報学と医学」-『週刊 医学界新聞』最新号より

『週刊 医学界新聞』に新しい連載である「図書館情報学の窓から」が始まった。佐藤翔先生という方が、ある意味で歴史的な手法で始まった。図書館情報学は、原子爆弾計画・マンハッタン計画に一つの起源をもつという議論である。とても面白そうだし、引用されているご自身の論文を見てみよう。
 

ゲーム・オブ・スローンズとスペイン語完全マスター(笑)

www.lrb.co.uk

 

ゲーム・オブ・スローンズというアメリカのTVドラマがある。非常に大規模な歴史ドラマというかエピックというか、『指輪物語』のような、古代の大きな規模のドラマである。総じて規模が大きく、全部で何作あるのかもわからないほど大きい。また、悲惨な状況を描く筆致も巨大である。ハンセン病のような皮膚病という主題で偶然見つけて、それから数作観てみた作品である。正直言って、よく分からない(涙)

それに関する評論が LRBに掲載されていて少し読んでみた。初めて読むが、John Landerson という作家の評論がとても楽しかった。スペイン語をマスターするのに、つまりゼロから出発してプロ級になるのに、575-600時間掛かるという。それと自分の時間の掛け方を較べると、自分は『ゲーム・オブ・スローンズ』を観たのはこれまでのを合計すると146時間であり、他のドラマを観た時間と合わせると、I would now habler español. という洒落た始まり方。とても楽しい文章です。

それなら私もゲーム・オブ・スローンズと観ようかと思うか、それならスペイン語(あるいは別の言語)を勉強しようというアホなことを考えるかは、これは秘密にしておきます(笑)

キャサリン田中先生の「対髑髏」に関するご論考を頂きました!

キャサリン田中先生の論考が Japanese Studies という英語圏での一流誌に掲載されました!幸田露伴の「対髑髏」を分析した力作です。仏教の文化や思想などの伝統文化と強く結びついてそれを発展させながら、欧米で受け入れられたハンセン病という概念を取り入れるという緊張した構図が描かれ、その中で、人々のハンセン病に対する恐れが減少していくというよりも、社会的スティグマが強くなっていくという議論です。納得できる部分がとても多い議論です。ぜひお読みください!
 
「対髑髏」は、医学と文学や疾病と文学というジャンルの中のとても重要な作品であり、キャサリン田中先生の議論はその中での新しい中核となる論文です。ぜひお読みください!
 
Tanaka, K. M. (2019). "The Abject Woman and the Meaning of Illness in Kōda Rohan’s ‘Tai Dokuro’ (Encounter  with a Skull)." Japanese Studies 39(1): 57-74.
 
ABSTRACT
Koda Rohan's (1867?1947) "Tai dokuro" (Encounter with a Skull) is often treated as a tale  of karmic retribution and transcendence. In addition to drawing on Buddhist philosophy, the text is  rich in allusions to classical literature and philosophy. Yet, as this paper argues, Rohan's tale is  decidedly modern. His depiction of illness places his story in dialogue with modern regimes of  health, gender, and class, while also drawing on traditional notions of illness and Buddhist aesthetics  of decay as associated with the Kusozu (Nine Stages of Death Scrolls). For centuries, Hansen's  disease was feared as an illness that reduced sufferers to a living corpse, and the 1873 discovery of  bacilli that caused the illness did little to assuage public fear: rather, the new attention to the  disease increased social stigma. Rohan's 1890 piece, written before Japan's 1907 legislation calling  for quarantine of sufferers in some cases, draws on modern understandings of Hansen's disease  while at the same time complicating the stigma surrounding the disease. Through a close  examination of "Encounter with a Skull", I draw attention to the meaning of illness and the abject  woman, as well as the play between archetype and innovation in this distinctly "modern" text.

ジープとジープ(笑)

昨日のOEDの「今日の単語」は zeep, n. である。私がそうだが jeep, n. と混同して分からなくなったのでメモ。

jeep、あるいは Jeep は四輪駆動車の商標である。もともとは第二次大戦時にアメリカ軍が欧州に投入した軍用車で、大活躍して、60万台を超える大ヒットとなった。アメリカのヨーロッパ戦線の総大将であるアイゼンハワーによると、原爆、輸送機、バズーカとともに、第二次世界大戦に勝利できた四つの要因の一つである。この軍用車は1940年に開発されたが、1941年には俗称として Jeep あるいは jeep と呼ばれていた。理由は General Purpose (万能)だから、そこからジープとなったのではないかという説などがある。

とても細かい話をすると、この jeep の音は軽い。発音記号で書くと【dʒíːp】 である。それに対して、zeep の音は重く、【zíːp】となる。意味の違いもあり、zeep はハチやトリや弾丸が、摩擦や高速移動の音を出している状態をいう。19世紀中葉からの用例にはクマバチやスズメやコマドリなどがあげられており、たしかにパワーがある。音楽でいうと「熊蜂の飛行」の時に弦楽器が出すような音が zeep である。jeep とは関係がないらしい。

とても勉強になった。 jeep と zeep が一瞬で区別できて、異なる発音ができるようになれるようにメモしておいた。

シチリアのミイラ状の遺体保存

www.bbc.com

 

BBCのReel の特集。シチリア島で1900年少し後まで継続したミイラ状の遺体保存について。全体で20分ほどの映像が提供される。エジプトを除くと、世界中で最もミイラ状に遺体を保存するケースが多いとのこと。おそらく1500年くらいに始まり、それから数世紀間継続して、第一次世界大戦後に人々は忘れてしまったとのこと。それを2007年に思い出して、それを研究する体制を作ったとのこと。

なぜそのように保存されたかという問題だが、シチリアの気候の問題もあり、エジプトと近いという事情もあり、ミイラ状に保存する高い技術もあった。特別な技術と特別な施設を使うため、身分が高い人々や富裕な人々がそのような保存を受けている。生命倫理学に従えば映像化できなかった図像で継続される。

シチリアの自然人類学の中で強く取り上げられている主題であり、これを世界に広めようという動きもある。夏の学校という形で、世界中から学者や学生が集まって、この素材を実際に用いて研究することができる。疾病や食料などが大きな主題になる。日本からも研究者が行くといいだろう。ただ、日本には墓場にある人骨という非常に難しい主題があり、それを分析できる日が来るかどうかは分からない。医学史の学者としてはもちろん非常な興味があるが、このタイプの研究の構成がよく分からないという事情もある。

 

野菜と山菜と有用植物

草川俊. 野菜・山菜博物事典. 東京堂出版, 1992.
草川俊. 有用草木博物事典. 東京堂出版, 1992.
Kerr, Julie. Life in the Medieval Cloister. Continuum, 2009.

草川俊という人物の名前を聴いたのは数週間前である(恥)宇都宮で高等農林学校で農業を学び、山梨で農業指導にあたり、そして中国というか満州に行って農業指導に赴いた。そこで満州人や中国人に綿花の栽培を教えたとのこと。中国の東北部をめぐってソ連と対立し、戦争では敗北するという彼から見ると屈辱があったが、日本の農学を学んだ官僚は、中国の農民と一緒に土まみれになることが彼に誇りを与えていた。うううむ。

しかし、日本語の文章がとても面白い。植物学的な知識、農学的な栽培の件、民間療法につながる有用性などをうまくまとめて、そこに万葉集斎藤茂吉などから引用している。若い時期には直木賞に推薦される優れた作家であったとのこと。しばらく前にヨーロッパ中世の修道士たちが、修道院で薬草を育てながら一人で静かに神と語り合うという非常に美しい描写があり、私はそちらの方がいいと思うけれども、草川もとても面白い。大切に取っておくことにしました。

魔女狩りとアルベルトゥス・マグヌスの秘密の方法

Sallmann, Jean-Michel et al. 魔女狩り. vol. 16, 創元社, 1991. 

魔女狩りの授業を一回分する理由で、ジャン=ミシェル・サルマンの『魔女狩り』も読んでみた。古くから存在する魔女の考えと、16・17世紀のヨーロッパの近代化の中で発生する魔女狩りが日本語でも説明されていてとてもよかった。画像もたくさんあるし、マテリアルもとても面白い。そのマテリアルの中で。「アルベルトゥス・マグヌスの秘密の魔法」が(おそらく)部分的に訳されている部分がある。実はこのマテリアルをこれだけの長さにおいて読むのは初めてで、喜んで読んでみた。きちんとした英語訳が2,000円くらいで手に入るので買っておいたが、これは数ページの日本語訳である。
 
卵を5日間酢に浸す
クマツヅラを持つ、ヘンルータを持つ
ベッドの南京虫の殺し方
蛇を追い払うのにハゲタカの羽毛やヤツガシラの血を使う(?)
うずらの心臓を男女で一つずつ持つ
幼児の歯を生やす
桃やアーモンドの実に自分の名前が書かれるようにする
ペストを治す
牛のふんと蜂蜜
小トカゲのふん
人間などの尿を飲む
人間の骨を飲ませてテンカンを治す
人間の唾液を飲ませる
赤いカタツムリ
蜘蛛と蜘蛛の巣
ネコの脳
牡蠣の殻
人間などの体毛
ミミズ
鉛と水晶
人の血の上澄み
人糞の力
犬の糞の力
オオカミの糞
牛の糞
 
非常に動物系で驚いた。それから人間自身の身体、液体、排せつ物などを使っている。きちんとした本も眺めてみよう。