Research Memos

『江戸怪談集』より精神医学史・医学史関連のメモ

『江戸怪談集』高田衛編・校注、上・中・下巻(東京:岩波書店、1989) 江戸の怪談集から抜粋したコレクションを読み、精神疾患と医学関連の素材のメモを取る。 狂気の娘と死骸のこと 旅僧が一夜の宿を乞うた家、男と女が住むが、その場で病の妻が死んでしま…

ナチスの医師と「悪の陳腐さ」

Aly, Goetz, Peter Chroust and Christian Pross, Cleansing the Fatherland: Nazi Medicine and Racial Hygiene, translated by Belinda Cooper, foreword by Michael H. Kater (Berkeley: University of California Press, 1994). ドイツで行われてきたナ…

『ピエール・リヴィエール』

ミシェル・フーコー編『ピエール・リヴィエールの犯罪 : 狂気と理性』岸田秀・久米博訳(東京:河出書房新社, 1995)よりメモ 「病気中、母の乳房が張って、乳が腐ってしまうので、父は乳首を吸って、毒液を吸いだしては床に吐き出してやりました」 60 「誰…

2013年度 医療・文化・社会研究会 第3回例会

2013年度 医療・文化・社会研究会 第3回例会 Medicine, Culture and Society Seminar Series 日時:11月27日(水)17:00~19:00 場所:慶應義塾大学三田キャンパス 南校舎476教室 発表者:磯野真穂(早稲田大学文学学術院) タイトル:日本における摂食障…

坂井建雄『人体観の歴史』

坂井建雄『人体観の歴史』(東京:岩波書店, 2008) 坂井は解剖学者であると同時に、解剖学史研究の第一人者である。この著作は、解剖学の歴史のレファレンスとして使うのが最適である。解剖学の業績を持つ医学者や哲学者などについての説明とその歴史的な意…

人種隔離と熱帯医学

帝国主義と身体についての授業の予習。トピックは熱帯医学と人種隔離の関連について、具体的に言うと、マラリアの感染メカニズムの理解、「免疫」と罹患率の人種的な違いについての経験などから、白人と現地人の人種隔離に基づいた都市政策が現れることを論…

ヨーロッパにおける病院の形成:1500-1800年

執筆中の『医療の歴史』の近世の病院の章の節の断片です。この節では、全体としては、近世のヨーロッパにおいて三種類の病院が形成されたことを記述するのが目的で、以下、ペストに対する隔離病院、梅毒病院、そして一般的な病院が形成されたことを順番に論…

Lazaretto という単語の訳し方

"lazaretto" という単語があり、もともとはイタリア語であるが、英語化している。 lazaret というスペルもある。この単語の訳し方が難しく、中世から近世のヨーロッパの医学史における二つの重要な疾患であるハンセン病とペストの流行と対策がからんでいる。…

「生きる価値がない生命の破壊」―英訳 Kindle 版をチェック

Karl Binding and Alfred Hoche, Allowing the Destruction of Life Unworthy of Life: Its Measure and Form, translated by Cristina Modak (2012) http://www.amazon.co.jp/Allowing-Destruction-Life-Unworthy-ebook/dp/B00AR34GZA/ref=sr_1_2_bnp_1_kin…

ニュルンベルクのナチスの医師たちの裁判

Pross, Christian, “Nazi Doctors, German Medicine, and Historical Truth”, in George J. Annas, Michael A. Grodin eds., The Nazi Doctors and the Nuremberg Code: Human Rights in Human Experimentation (Oxford: Oxford University Press, 1992), 32…

日本の戦犯の減刑について―日暮『東京裁判』より

日暮吉延『東京裁判』(東京:講談社, 2008) 戦犯に対して、裁判を行い、刑を確定したたのちにこれを赦免することは、アメリカの戦犯を裁く計画の一部であったため、ドイツでも日本でも早くから戦犯の赦免が論じられてきた。1949年の12月にマッカーサーは善…

BC級戦犯―林博史の新書より

林博史『BC級戦争裁判』(東京:岩波新書、2005) BC級戦争裁判についての書物から要点をメモ。 ポツダム宣言が捕虜虐待の戦争犯罪人に対する厳重な処罰を予告していたこと。1945年の10月には山下奉文中将が占領地での虐殺などの罪に問われて死刑、1946年の1…

泉鏡花「三人の盲の話」

泉鏡花「三人の盲の話」 鏡花全集第14巻に収録された短編。明治45年の作品。深夜に女の家に急ぐ途中で、四谷の谷底の坂道を上っているときに、辻で三人の盲に会って「女が自分の影に取り憑かれて殺される」という話を聞くという物語。影に憑かれるという主題…

ナチスと医療倫理の問題―シュミットの論文から

Schmidt, Ulf, “Medical Ethics and Nazism”, in Robert Baker and Laurence B. McCullough eds., The Cambridge World History of Medical Ethics (Cambridge: Cambridge University Press, 2009) ケンブリッジ大出版局の World History のシリーズは、グロ…

セミナー「日本とインドにおける精神分析と宗教」

2013年度 医療・文化・社会研究会 第3回例会 Medicine, Culture and Society Seminar Series 発表者(Lecturer):Dr C.G. Harding, Lecturer in Asian History, School of History, Classics and Archaeology, University of Edinburgh タイトル(Title):Reli…

天才と狂人―大正期の事例

島田清次郎(1899-1930)は、大正期の大ベストセラー作家で、そのカリスマ的な言動は大正期の社会現象にもなった人物である。かれは1923年に大スキャンダルを起こして文壇を追放され、翌24年には精神病院に収容されて、6年間収容されたまま肺結核で死亡する。…

シュニッツラー「夢小説」

アルトゥーア・シュニッツラー『夢小説 闇への逃走 他一篇』池内紀, 武村知子訳(東京: 岩波書店, 1990) 「闇への逃走」と同じ岩波文庫に収録された中編小説。第一稿は1907年に完成し、発表されたのは1925年である。18年間にわたって「寝かせ」と書き直し…

『死霊解脱物語聞書』

『死霊解脱物語聞書』小二田誠二解題・解説(東京:白澤社、2012) 寛文12(1672)年に起きた憑霊事件を取材して1690年に出版された江戸時代のルポルタージュ。のちに曲亭馬琴、鶴屋南北、三遊亭円朝などによって、小説・歌舞伎・落語などに翻案された。 160…

遠藤周作「松葉杖の男」

遠藤周作「松葉杖の男」 遠藤周作に「松葉杖の男」という短編があり、精神分析医の診療の様子が淡々と描かれている。20年以上前に読んだ作品である。先日の学会で、戦後のアメリカで行われていた心理テストの話を聞いて、この作品のことを思い出していた。ち…

第一次大戦とドイツの戦争神経症

Doris Kaufmann, Science as Cultural Practice: Psychiatry in the First World War and Weimar Germany, Journal of Contemporary History, Vol. 34, No. 1 (Jan., 1999), pp. 125-144. 第一次大戦においてドイツの軍と予備軍は合計すると約60万人の戦争神…

映画『戦争神経症』(1917)の分析

Edgar Jones, “War Neurosis and Arthur Hurst: a Pioneering Medical Film about the Treatment of Psychiatric Battle Casualties”, Journal of the History of Medicine and Allied Sciences, 67, no.3, 2011: 345-373. 1917年に作成された医療映画「戦争…

精神病院と「時」の問題

溝渕園子「消された〈時〉--チェーホフ『六号室』の二つの日本語訳をめぐって」敍説 3 (7), 5-12, 2011. チェーホフ「六号室」は1892年に発表された中編である。チェーホフが1890年に流刑地の実態調査のためにサハリンに1年ほど滞在したあとに書かれ、田舎町…

「精神医学の哲学」コンファレンス

Tokyo Conference on Philosophy of Psychiatry 2013 September 20-23, 2013 東京大学駒場Iキャンパス 9月20日〜23日にかけて、東京大学駒場Ⅰキャンパスで精神医学の哲学に関する国際会議が開催されます。 現在参加登録を募集しています。詳しいプログラム等…

戦間・戦後の精神病をめぐる創作2点

森三千代『森三千代鈔』(東京:濤書房、1977) 森三千代は詩人の金子光晴の妻で、自身も詩や小説などを発表してきた。「天狗」という短編は1946年10月に「文明」に発表された作品で、1944年に東京で没した作家の辻潤の晩年に取材している。辻潤は「岡老人」…

検疫の歴史コンファレンス

2014年8月にオーストラリアで検疫の歴史のコンファレンスが開催されます。アブストラクトの締切は9月16日。 Just a reminder of our call for papers, deadline 16 September 2013. Please circulate to any interested parties! Quarantine: History, Herit…

『医療の歴史』より「病院の歴史」・第二節の草稿

おそらく公の場でいうのは初めてだと思いますが、『医療の歴史』(仮題)という書物を書いています。1500年以降の西欧を軸とする医療の歴史で、過去30年ほどの新しい医学史研究の視点をできるだけ総合した書物を意図していて、私が書くだろう書物の中では、…

中村江里「日本陸軍と戦争神経症」

皆さま 次回の医療・文化・社会研究会(旧医学史研究会)のご案内をさせていただきま す。直前になりましたら、リマインダーをお送りいたします。ふるってご参加く ださい。 --- 2013年度 医療・文化・社会研究会 第2回例会 発表者:中村江里さん(一橋大学…

『レオ・アフリカヌスの生涯 』(リブロポート, 1989)

レオ・アフリカヌス(c.1494-c.1554)は、グラナダに生まれ、フェズで育ったのち、地中海のイスラム世界の各地を回り、最後には捉えられてキリスト教に改宗した人物である。彼が著名な理由は『アフリカ地誌』と呼ばれている書物で、1526年に完成して1550年代…

「サイケデリック」と文学者と精神科医の二行詩

“psychedelic” という語が作られた経緯が面白いのでメモ。19世紀の半ばから、アヘン、ハシシ、メスカリンなどの向精神物質 (psychotropics)を服用してその効果を記すことは、ボードレール、ベンヤミン、アンリ・ミショーなどの古典的な作品を生んでいる。20…

血族結婚村と不適格者の淘汰

篠崎信男「血族結婚部落の人類学的調査概報―山梨県南巨摩郡西山村奈良田に於いて―」『人類学雑誌』vol.60, no.3: 1949: 197-100. 昭和18年9月に厚生省研究所・人口民族部が行った、血族結婚に関する優生学的研究が発表したもの。南巨摩郡の西山村の奈良田の…