Research Memos

モーパッサンの精神病短編二編

モーパッサン「オルラ」『モーパッサン短編集 III』青柳瑞穂訳、152-194. モーパッサンの「オルラ」は、セーヌ川沿いの街ルーアンに住む男が、精神が変調して最後には妄想に呑み込まれるようにして精神が荒廃していくありさまを描いた短編です。最初は妙な感…

ワークショップ「比較モダニズム―心理学・文学・情動」

9月14日(土曜日)に成蹊大学で国際ワークショップ「比較モダニズム論―心理学・文学・情動」が開催されます。 Comparative Modernisms: Psychology, Literature, and Affect —International Conference— 14 September 2013 Seikei University, Tokyo Financi…

高砂族の自殺

奥村二吉「高砂族の自殺」『台湾医学会雑誌』vol.42, 1943: 200-214. 著者の奥村二吉は、のちに岡山大学精神科の教授となり、内観療法を提唱したことで名高い。この論文は、昭和11年から15年に台湾の高砂族の自殺を調査して、死後の霊魂と自殺についての思想…

台湾原住民(高砂族)の精神医学的研究

米山達雄・分島俊「高砂族の精神医学的研究」『台湾医学会雑誌』vol.40, 臨時号、1941: 1-31. 民族の比較精神病学的な研究は、帝国医学の広がりや、クレペリンが20世紀の初頭に提唱したことなどから、世界各国で実施され、日本でも戦前には盛んであった。も…

アメリカ人類学者の精神医学的日本人論(1945年)

La Barre, Weston, “Some Observations on Character Structure in the Orient”, Psychiatry, vol.8, 1945: 319-342. 「人間に文化と言語の違いがあるからこそ、文化というものが存在し、そこに本質があることを意識したのである」と語る文化人類学者のラ・…

16世紀イタリアの<胆石・結石>は奇跡か異常か

Touber, Jetze, "Stones of passion: Stones in the internal organs as liminal phenomena between medical and religious knowledge in Renaissance Italy", Journal of the History of Ideas, 2013, 74(1): 23-44. 15世紀から16世紀のイタリアにおける聖…

精神医学的フィールドワーク: 京大の南方民族調査(1942年)

三浦百重・村上仁「南方民族の精神病」『精神神経学雑誌』vol.48, no.2: 1944: 69-78. 1930年代には精神医学フィールドワークが流行し、大和民族と大東亜共栄圏内のさまざまな民族を精神医学的に研究することが行われた。規模ははるかに大きいが、アメリカで…

石川信義『心病む人たち』(東京:岩波新書、1990)

石川信義『心病む人たち』(東京:岩波新書、1990) 石川信義は精神科医で、東大の経済学部を卒業して就職したあと医学部に入り直して精神科医になったという少し変わった経歴を持つ。1968年に日本初の完全開放の精神病院である三枚橋病院を群馬県太田市に創…

ジゲリストと「舞踏病」の民俗学的な解釈

ヘンリー・ジゲリストの Civilization and Disease は医学史の古典中の古典であり、岩波新書から『文明と病気』として翻訳されている。その中に「病気と音楽」(下巻 pp.123-146)という有名な章があり、そこでジゲリストは中世の時代に南イタリアのアプリア…

実験室の方法とペストの歴史

Little, Lester K., “Plague Historians in Lab Coats”, Past and Present (2011) 213 (1): 267-290. ペストの病原体が発見されたのは1894年の香港で、アレクサンドル・イェルサンと北里柴三郎の二人の偉大な細菌学者が競いあって、一時は北里がリードしたが…

高橋お伝とハンセン病

高橋お伝とハンセン病 邦枝完二『お伝地獄』上・下(東京:講談社, 1996) 大衆作家の邦枝完二は、1934年から35年にかけて『読売新聞』夕刊に『お伝地獄』を連載した。その作品についてメモ。 高橋お伝は1850年に生まれ、1879年に斬首刑とされた。その犯罪と…

『東海道四谷怪談』

鶴屋南北『東海道四谷怪談』河竹繁俊校訂、岩波文庫 (東京:岩波書店, 1956) 『東海道四谷怪談』は1825(文政8)年に、当時71歳の円熟期であった鶴屋南北が書き下ろした作品である。民谷家に婿に入った伊右衛門が妻のお岩を裏切り、顔面が崩れて醜くなった…

Triumph of the Will (a 1935 film)

Triumph of the Will is a 1935 documentary film made by Leni Riefenstahl featuring the Nazi Party Congress in Nuremberg in 1934. I have never seen this famous film from its opening to the end, and I should have done so as soon as I started …

『黒焼の研究』

第一次世界大戦は、日本の医学のある部分をドイツへの重度の依存から独立する方向に向けたとされている。1918年8月にヨーロッパで第一次大戦がはじまると、日本は即座にドイツに宣戦したが、そのためドイツと断交状態になり、医学的な知識・技術・物資・製品…

日本の優生学と精神医学

日本の優生学と精神医学の連関は興味深いが、まだ研究も分析も進んでいない。欧米の先進国におけるのとは違った連関であったことは確かである。ナチスにおけるような安楽死は日本では政策として実施されなかったことはなかったし、ドイツ以外にも北欧やアメ…

フィリピンの近代化と民間習俗との闘い

Reyes, Raquel A.G., “Sex, Masturbation and Foetal Death: Filipino Physicians and Medical Mythology in the Late Nineteenth Century”, Social History of Medicine, 22, no.1, 2009: 45-60.西洋医学の導入にともなって、近代医学の視点で当地の民間習…

櫻井図南男「事態神経症に就て」

櫻井図南男「事態神経症に就て」『福岡医学雑誌』35(1942), 1283-1318.日本における戦争神経症と外傷性神経症についての古典的な論文の一つ。必読にして傑作の論文。「事態神経症」というのはブロイラーがある特定の事態に基づいて発生するものを「事態精神…

榊によるアイヌのイム論文

榊保三郎「イムバッコ(アイノ人に於ける一種の官能精神病)に就て(一月例会演説)」『東京医学会雑誌』15(1901), no.4, 1-15.榊が書いたアイヌのイム論は、精神病医がアイヌのイムを実際に観察して書いた唯一の論文として長いこと標準的なものであり、榊が…

江戸の藩医たち

必要があって、プロの近世史の研究者による医療史研究を読む。文献は、海原亮『近世医療の社会史―知識・技術・情報』(京都:吉川弘文館、2007)著者が色々な箇所に論文として出版したものに訂正を加えてまとめて一冊の書物にしたもので、それぞれの論文の実…

明治19年の神田のコレラ

ここしばらく、研究書や論文を読む暇がありません。 たまには、自分の研究の話をさせてください(笑)明治19年の東京のコレラを、町名ごと・一日ごとに患者の数が分かる資料を見つけて、データペース化して分析している。1500くらいの町名に関して、だいたい…

明治東京のスラム・クリアランス

必要があって、明治東京の市区改正を論じた古典を読む。文献は、藤森照信『明治の東京計画』(東京:岩波現代文庫、2004)明治14年に東京防火令が出て、中央三区(神田、日本橋、京橋)の主要街路および運河沿い家屋へのレンガ、石、蔵造りによる路線防火体…

漁村の疾病

漁民の歴史の本を読む。文献は、岡山達明『近代民衆の記録7 漁民』(東京:新人物往来社、1978)この本は、コレラの伝播のメカニズムを調べていて、そのヒントを得るために目を通してみた本で、いくつもの大きなヒントがあった。この記事では、そのことでな…

『モデラート・カンタービレ』

必要だというわけではなかったけど(笑)、マルグリット・デュラスの『モデラート・カンタービレ』を読む。河出文庫に収められている。もともとはサイゴンで暮らすフランス人としての植民地経験を自伝的に描いた『愛人』を仕事の関係で読んで面白かったのが…

谷崎潤一郎『悪魔』『続悪魔』(1912-13)

http://on.fb.me/16Dh428 FB更新。 谷崎潤一郎の初期の短編『悪魔』『続悪魔』です。大仰なタイトルですが、話題はファム・ファタールと神経衰弱で、神経衰弱が東京の当時の現代生活の中で強烈に描かれています。その病者には谷崎自身の経験も反映されている…

谷崎潤一郎『瘋癲老人日記』

http://on.fb.me/16Dh428 大阪の道修町に出張。新幹線での行帰りの車中で『春琴抄』と『瘋癲老人日記』を読みました。後者について簡単なメモを英語でFBに。好きな文学作品は、なるべく映画や漫画で見ないようにしているのですが、若尾文子の映画化には少し…

戦後の日本精神医学が戦前精神医学とどう対峙したか

http://www.facebook.com/akihito.suzuki.7505FB更新。 戦後日本精神医学は、戦前に自らが行ってきたことと対峙しなければなりませんでした。そのときに、全体主義社会の心理の発生を、新フロイト主義と左派思想の組み合わせで説明した著作であるフランツ・…

台湾高砂族の精神病調査(昭和17年)

on.fb.me/16Dh428 FB更新. アイヌにはじまり、八丈島、三宅島、五家荘、東京池袋、小諸などのさまざまな地域で実施された精神病一斉調査。戦前で最も野心的なものは、1942年に台湾の高砂族を約4,000人にわたって調査したもの。最大のポイントは、高砂族(特…

大正期感化院収容児童の精神医学的調査

on.fb.me/16Dh428 FB更新。大正末の感化院収容児童の精神医学的調査。著者は後に名大教授となった杉田直樹。ヘッケルの進化論を用いて感化院の児童青年は、社会への深化の途上で制止させられた原始的な精神状態であると議論します。

16世紀ロンドンのペストと富裕層向けの演劇

Smith, Milissa, “Personification of Plague in Three Tudor Interlude: Triall of Treasure, The Longer Thou Liueth, the More Foole Thou Art, and Inough Is As Good As a Feast”, Literature and Medicine, vol.26, no.2, 2007: 364-386.後期中世から…

茨城県浮島地方における精神疾患一斉調査(1959)

http://on.fb.me/16Dh428 FB更新。1959年出版の東邦大学精神科による精神医学一斉調査。秩父地方で血族婚と精神分裂病の集積について重要なデータを得たチームでしたが、次の調査地として選定した茨城県浮島は、調査の期待を裏切られました。彼らが期待して…