歴史的に使える疾病分類を作る

 19世紀後半から20世紀にかけてのドイツにおける疾病分類を「串刺し」にする方法についての論文を読む。

 1902年からの1960年までの日本における複数の疾病分類(全部で5つある)を串刺しにして、時系列で比較できるような分類を作る仕事を、プロジェクトのチームで年末にした。死因統計のデータベースの公開が迫っているからである。ペスト、コレラ、天然痘といった病気は問題ない。肺結核はOKだが、「その他の結核」は放棄。意外にてこずったのが赤痢だが、これは二人の専門家が素晴しい方法を考案してくれてきれいに解決した。なんとかしようとがんばったが、どうにもならなかったのが、「小児のチクデキ(とても難しい漢字を書く)と子癇(しかん)」である。チクデキも子癇も漢方の用語で、痙攣とか硬直とかいう意味らしい。死因というより、死の直前に現れた症状というべきである。18世紀ロンドンの死亡表で有名な convulsion(痙攣)に似ている。これを他の死因と一緒に「乳幼児に特有の疾患」のようなカテゴリーでくくれないかと思っていたが、うまくいかなかった。

 この仕事ではだいぶ苦労したが、この論文を読んでみるとドイツの疾病分類を統一する仕事は、日本のそれの比ではないらしい。1871年まで教区簿冊に死因を記入する必要はなく、また1892年までそれぞれの州が独自の分類で分類を行っていた。92年以降も、全国で統一された分類が整備されるのは遅く、1920年代だという。通時的な整合性と地域ごとの整合性を考えなければならないわけである。この論文で問題にされているのが、cramps (ひきつけ)である。乳幼児に多くて、確かに convulsionやチクデキに似ている。このカテゴリーは「下痢」に分類するのが正しいというのがこの論文の主張である。

 難しい問題である。Cramp=下痢という読み換えが常に成立するわけではないことは、誰もが認めることである。かなりの数の cramp が、下痢以外の病気に随伴していたはずである。正直言って、かなり大胆な読みかえだと思う。(だからわざわざ論文にする価値があるのだろうけれども。)しかし、「下痢」に分類できる疾病群が増えたか減ったか、地域差がどうだったかという議論をするときに、分類のばらつきによる大きな欠損があってはいけない。Cramp=下痢と読み替えることで、統計的に安定するなら、それでいいじゃないかという立場もわからないでもない。この問題と同じことを、去年の5月5日にも書いたが、あまり前進していない。

 ここで皆さんに半分冗談で半分本気の質問。平安時代に記録された死因 No.1 である「もののけ」を、現代の死因分類に大胆に読みかえるとしたら、何になると思いますか?

文献は Kintner, Hallie, “Classifying Causes of Death during the Late Nineteenth and Early Twentieth Centuries: The Case of German Infant Mortality”, Historical Methods, 19(1986), 45-54.