拘束致死事件とヴィクトリア朝


 このブログは、淡々と研究書の紹介をしているが、今朝のニュースで見た名古屋の「アイ・メンタルスクール」という民間施設での拘束致死事件は、精神医学史の研究者たちにとって、デジャ・ヴュという言葉以外では表現できない印象を与えただろう。 

 ニュースや、ネット上でちょっと調べた毎日新聞の記事によれば、死亡した男性は、施設への入居を知らされず、家族の合意によって施設関係者に「拉致」され、30名ほどと一緒に部屋に閉じ込められ、時として柱に鎖で縛り付けられていたという。 19世紀初頭の精神医療改革が始まる前の、いわゆる暗黒時代の精神病院にあまりに似すぎている。 

 「ヴィクトリアン」という言葉は侮蔑語と言って良い。 私自身、今年の春に出た著作の中で、19世紀の精神病患者を抱えた家族の態度を、「典型的なヴィクトリア朝の偽善」と断言した。 このような事件が起きないために膨大な努力をしたヴィクトリア朝のイギリス人がこの事件を知ったとしたら、悲しみに満ちた軽蔑を私たちに向けるだろう。 そして、この問題に関しては、私たちの時代は軽蔑に値する。


画像は、1814-15年のイギリス議会による精神病院調査委員会が報告した、べスレム精神病院に15年にわたって監禁され鎖につながれていたウィリアム・ノリスの肖像。