ヴィクトリア朝の心霊主義

 イギリスの心霊主義についての古典を読む。文献はOppenheim, Janet, The Other World: Spiritualism and Psychical Research in England, 1850-1914 (Cambridge: Cambridge University Press, 1985) 『英国心霊主義の台頭』和田芳久訳(東京:工作舎、1992)

 オッペンハイムの書物は、19世紀半ばから20世紀初頭のイギリスの心霊主義についてのスタンダードな研究である。後期ヴィクトリア朝では、その理由は何であれキリスト教がゆらいでいた。神がいない宇宙、そして道徳的な意味が欠如した世界に住むことに順応できなかった多くのヴィクトリア朝の人々は、彼らが失いつつあると感じた「何か」を心霊主義に求めた。貴族から労働者階級、ペテン師からケンブリッジ大学の哲学教授までが参加したこの複雑な運動の中核の一つには、異常心理学と呼べるものがあった。霊媒研究や催眠術などを通じて、人間の人格の多層性や潜在意識といった、後の心理学の基本概念になるものが解明されていった。

その中で、フレデリック・マイヤーズ(Frederic Myers, 1843-1901)の言葉を引用しよう。「私の覚醒した自己は、それがいくつもの潜在自己の中で、日常生活を送るのに最も適したものであるという以外に、なんら特権をもつものではない。」有名な、心理学の歴史のアンソロジーによく出てくる言葉だが、ふと気になったのが、「日常生活」というフレーズである。非日常的な生活を送るのなら、覚醒した自己でなくていいということじゃないか!ちょっと気になってOxford DNB を調べてみたら、この男、とても面白い。ちなみに、DNBのエントリーは、Alan Gauldの力作である。