特効薬とは何か

 新着雑誌から。医学史の古典の一つ、「イギリスのヒポクラテス」、トマス・シデナムによる17世紀の特効薬論を読む。文献はMeynell, G.G., “John Locke and the Preface to Thomas Sydenham’s Observationes Medicae”, Medical History, 50(2006), 93-110. シデナムの有名な序文の一部は、哲学者のジョン・ロックの筆によることを証明した重要な論文である。

 シデナムのテキストは、病気の実体論を説いた一つの代表として名高い。植物の種(species)のように病気の種が堅固に存在すること、しかもそれは病気の原因の特殊性によるのではなく、症状の特徴的なセットとして理解されること。病気の哲学で必ず議論される有名なテーゼである。大学院時代のコースワークのリーティングリストにも入っていて、15年前を懐かしみながら読んでいたら、当時は気がつかなかった面白いことを言っていた。当時、マラリアに特効的に効くキニーネが話題をさらっていたが、その特効薬についてである。

 当時の治療法の多くは、人間の身体にそなわった自然治癒力の発露としての症状に導かれるものであった。<特効薬>というものは、それとは全く異種の治療法であり、病気の種を破壊するものであるとシデナムは言う。それも原因を取り除くというのではない。原因をアタックするのではないし、ましてや症状を操作するのでもないのに、「病気の種を破壊する」特効薬 - シデナムは何を考えていたのだろう?このあたりに、少なくとも私が気づいていない、症状と治療のエピステモロジカルな問題があるのだろうな、という感じは、20世紀の精神医療の身体療法の議論を読んでいても漠然と感じた。

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