社会の心理学化

 若手の研究者からいただいた、社会の心理学化についての論文を読む。 文献は 佐藤雅浩「『心理学化する社会』の歴史的相対性 - 大衆化された心理学学説に対する専門家の懐疑論に着目して」『現代社会理論研究』15(2005), 383-393. もう一つ、「心理学的疾患言説における精神 / 身体 / 外部環境 - 20世紀の日本の大衆メディア言説を対象として-」『ソシオロゴス』29)2005), 90-108. も頂いた。

 「心理学っぽい」概念で、社会や、身の回りや、自己を表現する私たちの傾向は、いやでも目に付く。トラウマ、ストレス、コンプレックス・・・ 社会学者の間では、このような現象は、社会の心理学化などのフレーズで呼ばれている。現代社会を読み解く一つの鍵としての「社会の心理学化」は、すでに研究と議論の蓄積があるという。この論文は、「社会の心理学化」という概念を、現在の社会学者の議論に見られがちな近視眼的な現代(20世紀後半)への集中から解放して、より長いタイムスパンの中に置いた仕事である。冒頭で非常に効果的な仕方で、1920年代の引用と1950年代の引用を並べて、20世紀の初頭にすでに社会の心理学化の基本パターンは確立していることを示す。1920年代には東大精神科教授の呉秀三は、近頃の新聞に氾濫している「神経衰弱」という概念の誤解を嘆き、1955年にはある心理学者は「ノイローゼ」という語のマスコミでの濫用を憂えている。心理学の概念で世界を捉えるという現象は、現代をはるかに超えて、20世紀初頭まで遡れるというわけである。

 大衆メディアの側から社会の心理学化を捉えるなら、もっと昔に遡れないだろうか?19世紀のイギリスはもちろん、例えば、ルネッサンスの「メランコリー」の流行はどうなるのだろう? 人々が実際の担い手とよく接触していた「医学化」一般との関係はどうだろうか? 色々なインスピレーションがスパークされまいsた。面白い論文をどうもありがとうございました。