ラッパ狂はモノマニーか?


 京都市社会課『京都市における精神病者及その収容施設に関する調査』(昭和10年)には精神病の疫学統計が掲載されている。どんな診断の精神病が多いのかを知ろうとして作ったのだろう。

 これが、疫学としては全く役に立たない。悲しさを通り越して嬉しくなるほど役に立たない。全部で約1400人の患者、うち305人は「早発性痴呆」、118人は「憂鬱症」。このあたりは妥当である。 他のものを列挙しよう。 「偏屈症」「叫喚症」「外出性ヒステリー症」「独語水洗症」「運動狂」「投書狂」「映画狂」「剣舞狂」・・・ 目立った症状や人を困らせる行動 + ~症 で、精神病の病名が作られてしまっている。 その中でも私が好きなのは「喇叭狂」と「大声狂」である。 ラッパ狂は中京区の男性、大声狂は二人いて、中京区に一人、下京区に一人、どちらも男性である。 なにか、雰囲気が伝わってくる。 

 このへんてこな精神病の疫学、厳密な疾病概念を持っていない素人が適当につけた病名を列挙しているだけで何の役に立たないと言ってしまえばそれまでだけど、実は面白い。 エスキロールや彼の弟子のジョルジェのモノマニー概念が流行した一つの理由が隠されている(笑) 

 画像はジェリコーによるサルペトリール病院の患者の肖像「モノマニア 殺人者」