情死の歴史

 いつまでも現実逃避をしているわけにもいかず、日本の精神医学における自殺論のリサーチを始めた。読んだ文献は、大原健士郎『心中考 愛と死の病理』(東京:太陽出版、1987)

 日本の心中に関する精神医学的・文化史的な考察の大部の書物。歴史的なマテリアルも簡潔に紹介されているし、昭和40年付近の症例なども多く含まれている。日本の論客たちが情死や自殺を、西洋と較べて日本的なものだと捉えているのが多数派であるのが面白かった。ヨーロッパの思想家や歴史家たちも、「自殺の国民化」のプロジェクトに血道を上げていたんだろうか? 

 阿部定事件の証人聴取書が細かい活字で50ページほど掲載されていたり、色々な心中事件が紹介されていたり、知らない話が満載。その中でも、松竹映画『坂田山心中 天国に結ぶ恋』になった昭和7年の心中は学会報告に挿む面白いエピソード(vignette)に最適。慶應の学生と静岡の素封家の娘が大磯で心中をする。実際に二人の死体が見つかった山は八郎山というが、その名前では悲恋の感じが出ないからと、新聞記者が勝手に坂田山と命名するというのもいい。(このギャグは英語にしにくいけど。)女の死体が掘り出されて死体愛の対象になるという猟奇的なおまけまでついて、松竹が即座に同年に映画化する。探せばポスターもあるだろうし、主題歌のメロディーも歌詞もいい。こちらを参照してください →
http://www.duarbo.jp/versoj/v-senzenkayou/tengokunimusubu.htm 

 現実逃避的に(笑)、この主題歌の三番を英語に訳してみた。Jenny さん、hitomidon さんをはじめ、英文学に造詣が深い皆さまの添削をお待ちしています(笑)。

ふたりの恋は 清かった
神様だけが 御存知よ
死んで楽しい 天国で
あなたの妻に なりますわ

Innocent was our love,
Only knows the one above.
With joy shall I expire,
Dress’d in a bride’s attire.