糞尿の歴史

 色々な仕事は終わっていないが、コレラのリサーチを設計しなければならない。コレラといえば、どうしてもし尿と飲料水の分離の話をしなければならない。というわけで、し尿処理と衛生状態について手当たり次第に借りた本を読む。文献は、李家正文『糞尿と生活文化』(東京:泰流社、1987)

 溢れんばかりの薀蓄を傾けて気軽に筆の赴くままに書いたまさに随筆である。珍奇な知識がたくさん。一つだけ紹介する。大森貝塚の発見者で東京大学で教えていたエドワード・モースが、田畑にし尿をまく日本の習慣に目を留めて、明治10年に「日本はし尿に対して感じ方が鈍い」と言っている。これは当時の西洋人に共通する感性だろう。しかし、モースは「アメリカ人を悩ませる病気が日本では見られない。[ アメリカは ] 汚物を下水管で流し、水を汚しているのに、日本ではそんなことがない」とも言っているのだそうだ。江戸は環境先進国で衛生的だったとされる(心もとない)根拠の一つである。
 
 私は読んでいないが、李家の著作では昭和7年の『厠考』などが大きな著作として知られている。李家はトイレとスカトロジーの異色の文化史家として人気があって、何十冊という本を書いているが、この本を読むべきなんだろうな、やっぱり。李家の代表作を読みたいと思っている方は、復刊投票してください。

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