アフリカの疾病と医療

 アフリカの疾病史・医療史についての論文を読む。文献はPrins, Gwyn, “But What Was the Disease?: The Present State of Health and Healing in African Studies”, Past and Present, No.124(1989), 159-179.

 未読山の中から抜き出しただけで、著者について何の知識も持たない論文だが、半年に一本あるかどうかの傑作だった。博覧強記を軽々と身にまとい、流麗な筆で根本的な問題をめぐる深い思索をした論文で、要点はこれこれという普通の学術論文のようなまとめ方はできない。役に立たない記事だと同業者たちに怒られるかもしれないが、この論文の魅力を伝えることはブログのスペースでは荷が重いし、実際に読まないと分からない。私の先生の仕事の中で最良のものは、このような魅力を持った書物だった。

 アフリカの開発原病の話もエレガントにまとめられていた。アフリカの伝統医療や儀礼についての知らない話がたくさんあるのも面白かった。しかし何よりも面白かったのは、公衆衛生や疫学という集合的な現象と患者の治療という個人的な現象の二つをメタレヴェルで考察する視点を示唆していることである。一人の研究者がこの二種類の現象を統合して研究することはアフリカ研究ではよくあることなのかもしれないけれども、少なくとも私にはこの両者の関係をメタレヴェルで考察しようという発想は全くなかった。これから何度も読み返す論文になるだろう。