18世紀のエロティカ



 18世紀イギリスのポルノグラフィの研究を読む。文献はPeakman, Julie, Mighty Lewd Books: the Development of Pornography in Eighteenth-Century England (New York: Palgrave Macmillan, 2003).

 18世紀のイギリスのエロティカ/ポルノグラフィを、ほとんど読まれていないものを含めて探索して分析した研究書。一次資料の文献表がすさまじい。少なくとも私にとっては、『ファニー・ヒル』とサドの作品、それから研究書の図式だけから得ていた18世紀のエロティカに関するイメージが大きく変わった。

 私たちが「エロティカ/ポルノグラフィ」というと、「人間の若い女(たち)を主人公にして、彼女(たち)のさまざまな性行為を露骨に描く、ある程度複雑なストーリーを持つ小説」と括ることができる作品をまず予想する。『ファニー・ヒル』やサド侯爵の作品、あるいは『ラジオナメンティ』はだいたいこの範疇におさまる。 

 18世紀のイギリスのE/Pの全体像 ははるかに多様で雑多だった。例えば「植物学的ポルノグラフィ」は、リンネに代表される植物の性的分類への揶揄をベースにして発達したジャンルで、たとえば男性性器をそそり立つ樹木に見立てた植物学のパロディであった。「電気学的ポルノグラフィ」は、棒を摩擦して電気を帯びさせる実験に卑猥な意味を与えてみせた風刺であった。あるいは「地誌学的ポルノグラフィ」は、当時の航海記・探検記のパロディで、女性の身体を未知の土地に見立てた作品だった。画像は『サミュエル・コック(=Cook/Cock) 船長の航海記』と題された作品からとられた地図で、「愛の道」を通って、非常に狭い海峡を通って「結婚湾」に至り、「欲望の国」と「寝取られ亭主の州」に上陸しないで「幸福湾」に至る航海の地図を示している。 もう一つはイースター島のパロディ。 

 ここで久しぶりに皆さんにクイズ。A New Description of Merryland (『女陰国探訪』とでも訳すことができる)という作品がある。女性の身体と性器を土地に見立てて地誌のパロディに仕立てたもので、いつも温かく湿っている谷間だとか、女王がいまわす国の首都で「悦びの座」であるCL_T_R_Sだとか、まあそういう話(笑)である。この1740年代に出版された作品の中にはなんと日本も登場する。この部分を「謎かけ」風に翻案しよう。「女陰国で話されている言葉とかけて日本語と解く。そのこころは?」日本語の一つの特徴を意外に的確に捉えた謎掛けですよ。