解剖図譜



必要があって、解説付き解剖学図版集を読む。文献は、Rifkin, Benjamin A., Michael J. Ackerman and Judith Folkenberg, Human Anatomy: Depicting the Body from the Renaissance to Today (London: Thames & Hudson, 2006).

 美術書の出版社から出た、ルネッサンスから現代までの色々な解剖学の図版集。冒頭の解説は、16世紀から18世紀くらいまで(同業者向けに言うとヴェサリウスからハンターまで)だけれども、図版は19世紀以降のものが半分くらいあって、作りがちょっとおかしい。基本的に、オクスフォードから10年以上前に出た Fabric of the Body をしのぐ本ではない。でも、Fabric of the Body には入っていない、とても気に入った解剖図版が二つもついていて、ちょっと得した気分である。一つはカッセーリとシュピーゲル Casseri と Sphieghel の1627年の図譜から。 この図譜はわりと有名なものだが、この図版は私は見たことがなかった。解剖のモデルというのは、古典古代の主題だったりキリスト教の改悛だったり優美なポーズや厳粛な姿勢を取ることが多いが、ものすごく現実的な人生に疲れきった農民がモデルになっているのが面白い。もう一つは、1678年に出版された Ame Bourdon の書物より。この画像はたぶん専門家たちの間では有名なんだろうけど、私が気をつけてみたのははじめて。これは、さまざまな解剖図譜から写した図を、一つの絵の中に一緒に描きこんだ、商業主義の海賊版パスティーシュが作り出した、アナトミカル・キマイラ。ひとみどんさんのお眼鏡にもかないそうなこの図版は、これまで色々みた解剖図譜の中で、一番のお気に入りかも。