生けるミイラ

 未読山の中から、ツルゲーネフの短編「生きた御遺骸」を読む。『ツルゲーネフ全集』第八巻 米川正夫訳(東京:日本図書センター、1996)655-683. 以下はネタバレがあります。

 いったいなぜこの作品を読もうと思ったのか記憶は確かではないが、読んでみると、確かに私が知っていなければならない内容の短編である。うら若い乙女が生きたままミイラ状態になっていく奇病にかかってしまい、病気はどんどん進行して、ついにある小屋で一人で療養しているところに、以前の同じ村の旦那さま(この人物が「私」という語り手である)がたまたまやってきて彼女の話を聞くという設定である。娘は今もミイラ状態であり、変わり果てた姿になってしまったが、この慢性病患者(笑)は、意外にその人生に満ち足りている。大きな街に行って病院に入ろうかという「私」の提案は言下に拒まれ、一日のほとんどを孤独に過ごしている今の状態で幸せなのだと彼女は言う。許婚は別の女性と結婚したこと、小さな女の子が花を持ってきてくれること、ウサギが小屋に飛び込んだことなど、過去と現在の人生を淡々と語る彼女の思いは話すにつれて高まっていき、「草野の中で」という歌を、「私」への恋心を託して、ミイラに出せる精一杯の美しい声で歌う。

 私の要約は原作の雰囲気を大きく損ねてしまっているだろうけど、グロテスクな感じは全くといっていいほどない。読んだ後、不思議に暖かい印象が残る。