サウス・カロライナのマラリア

 未読山の中からサウス・カロライナのマラリアについての論文を読む。文献はDubisch, Jill, “Low Country Fevers: Cultural Adaptations to Malaria in Antebellus South Carolina”, Social Science and Medicine, 21(1985), 641-649.

 カリブ海からアメリカ南部というのは、アメリカの先住民、ヨーロッパからの移民、そしてアフリカからの奴隷という三者が交差して成立した地域である。それを象徴するのがマラリアという疾患である。この論文が対象にしているサウス・カロライナでは20世紀に入ってもマラリアは撲滅されず、アメリカの州の中でも常にトップ5に入るマラリア流行州であった。

 サウス・カロライナにマラリアが定着した具体的なメカニズムは農業開発であった。海岸沿いは低湿地が多く、植民の初期から米作の水田として期待されていた。17世紀末には既に水田が広まり、それにともなって腐敗した有機物を含んだたまり水を好むアノフェレス蚊の好適な生息地も広まっていった。サウス・カロライナの農業地にマラリアが浸淫するに伴って、人間の側もマラリアを避けて予防する方法を見つけるようになる。それが季節的な移住であった。マラリアが流行する季節に、耕作地を離れることである。これが可能な富裕なものたちは、季節的な不在地主になったが、土地を離れることができない比較的貧しい小農民は淘汰され、大地主制へと移行した。マラリア浸淫地での広大な土地の耕作を可能にしたのは、アフリカから輸入された、マラリアに対して遺伝的な抵抗力を持った奴隷たちであった。プランテーションと、経済と、マラリアが互いに支えあいながら、奴隷制に基づく大地主制が進展したのである。

 この論文のポイントは、環境と疾病が人間社会を決定するという一方向の因果的な決定論ではなく、人間の文化的な行動(マラリアを避けて一時的に転地すること)を挿んでいる点である。とても参考になった。