健康の社会的決定要因

必要があって、健康の社会・文化・行動的な決定要因についての15年前のレヴューを読む。Caldwell, John C. and Pat Caldwell, “What We Have Learnt about the Cultural, Social and Behavioural Determinants of Health? From Selectd Readings to the First Health Transition Workshop”, Health Transition Review, 1(1991), 3-17.  同じ内容でアップデートしたものを手に入れないと。

 健康を決めるのは、もちろん医療と所得と衛生環境が大きいけれども、それ以外の社会・文化的な決定要因というのがしばらく前から注目されている。文化や行動の影響というのは、とても測定しにくいから、研究が進んだのは最近だけれども、有名なのは母親の教育程度で、所得などをコントロールした後でも、母親の修学期間が一年増大すると、幼児死亡率がパーセントで7-9ポイント下がるという報告すらある。あるいは社会的に平等な社会は死亡率が低いだとか、政治的な改革運動は、「文化的創造性」を惹起して、人々に医療を行渡らせる方法を見つけ出すから、医療への平等なアクセスを作り出すだとか、面白い洞察が沢山ある。

 この論文で面白かったことを二つ。一つは伝統医学の役割。日本でもそうだけれども、西洋医学が移植されたときには、土着の医学は敵視されて、人々が(無効有害な)伝統医学に頼るから死亡率が高いというような言い方がされていた。しかしスリランカやインドのケララなどの研究から引き出された結論によると、伝統医学が普及している場所では人々は病気を「治療のために何かしなければならない」状態であるとみなしているから、そうでない枠組みで病気を捉えている文化、例えば病気は神が賜った試練の機会であると信じている文化よりも、健康の程度が高いという。おそらく日本の健康転換の要所要所で起きたことも、これに類する事態ではないかと私は思っている。

 もう一つ面白かったのが、「教育程度が上がると正しい健康行動をするようになる」というのは、いったいどういうメカニズムで起きるのかいう考察だった。これはまだよく分っていないが、大雑把にいうと、教育程度が上がると「科学者が言うことを無批判に信ずるようになる」のか「科学的な世界観を受けいれる」のかということである。これを区別して統計的に証明できるような史料を扱うことは、まずないと思うけれども、この区別はいつも気をつけていなければならない。