20世紀フランスの病院


 20世紀フランスにおける病院の性格転換についての論文を読む。文献は、Smith, Timothy G., “The Social Transformation of Hospitals and the Rise of Medical Insurance in France, 1914-1943”, Historical Journal, 41(1998), 1055-1087.

 西欧の病院という制度は、もともと、貧しい者や困っている者への宗教的な慈善施設として出発した。「貧しい者」と言っても、貧しさの度合いは、時代、国、病院のタイプなどによってかなり変わってきて、初期近代のフランスのように、病院の多くが、最下層の貧民を収容する施設だったケースもあれば、同じ時期のイギリスのように、労働者階級を患者として念頭に置いた施設が作られたケースもあった。しかし、いずれにせよ、富裕層や中産階級の患者が病気になったときに、彼らが病院に行くことは、まず考えられないことだった。

 19世紀末から20世紀にかけて、この状況は決定的に変わった。病院は、慈善の機能を残しながらも、富裕層や中産階級の患者が病気になったときに、好んで行く施設になった。現代の私たちがイメージする病院に近いものが現れるのである。この病院の性格転換という現象は、西欧の各国を通じて見られるが、国によってタイミングもメカニズムも大きく違い、20世紀医学史の一つの重要な主題になっている。これからこの主題について少し勉強しようと思っていて文献を集めていて、手始めにフランスの事例を研究したこの論文を読んだ。

 まだ慣れていない話題だから、よく細部がつかめていないが、話の大きなポイントは二つ。第一次世界大戦での傷病兵士たちが経験した治療と、1928年の保険の導入とが、フランス人を病院に行かせるのに大きな役割を果たしたということである。

画像は、1855年のパリの壮麗な病院群を示した地図。 この時代のパリは、医学教育の中心として世界中から学生が集まり、その数は5000人に達していた。