DSM-III

 新着雑誌から、DSM-IIIを批判的に論じた論文を読む。文献は、Galatzer-levy, Isaac R. anmd Robert M. Galatzer-Levy, “The Revolution in Pschiatric Diagnosis: Problems at the Foundations”, Perspectives in Biology and Medicine, 50(2007), 161-180. 

 アメリカ精神医学学会の『診断・統計マニュアル』は、1952年に第一版が、1968年に第二版が出た。1980年に出版された第三版は、以前の版を劇的に改訂したもので、DSM-IIIとして知られている。現在は1994年に出てミリオンセラーになったDSM-IVのマイナーチェンジ版が使われており、2011年にはDSM-Vの出版が予定されている。この論文はアメリカと世界の精神医学の方向を大きく変えたDSM-IIIの検討をしている。

 DSM-II と DSM-IIIの最も大きな違いは、後者は、精神医学を、医学の他分野のように「科学的な」ものにすることを目標にしていることである。改訂の原動力であったロバート・スピッツァーと彼が選んだチームの目標は、DSM-IIから仮説的な理論、特にフロイト派の精神分析の理論を排除して、診断の信頼性を高め、比較的シンプルに観察できる症状・病像から到達可能な診断の分類を作り上げることであった。この論文は、そのためにDSM-IIIが採用した方法は、「科学的な」診断を可能にしたのかということを吟味して、否定的な結論を出している。 

 DSM-IIIが、DSM-IIに体現されるフロイト流の精神分析と較べて、「科学的」かどうかと聞かれると、多くの人がイエスと答えるだろうけど、医学の他の分野の診断が「科学的」であるのと同じような意味で「科学的」だと思っている人は、たぶんいないと思う。 誰も信じていないことをむきになって否定されても、どう反応していいか判らない。