水の征服

必要があって、19世紀フランスの「水の征服」を論じた書物を読み返す。文献は Goubert, Jean-Pierre, The Conquest of Water: the Advent of Health in the Industrial Age, introduction by Emmanuel Le Roy Ladurie, translated by Andrew Wilson (Cambridge: Polity Press, 1989). 同書には日本語訳もある。

かつては水は「恵み」であった。泉や川など、自然のあるがままの状態で手に入る水を飲み、使っていた。『レ・ミゼラーブル』の孤児コゼットが、街外れの泉まで重いバケツを提げて水を汲みに行く情景は、自然水源に依存して水を得ていた時代には、貧しいものが重労働をして水を確保し、しかもその分配は著しくばらついていたことを象徴している。そのフェーズから、長い時間をかけて、水は万人に分配される財に変わる。水道で遠方から運ばれた水は、ろ過され、科学的な検査にかけられ、後にはそれに細菌学的な検査が加わった。この水の供給が、私企業なのか公共サービスなのかは、19世紀には国によって変わっていたけれども、水は「恵まれるもの」から、工業製品のように大量に生産されるものになった。

この書物は、水が恵まれるものから技術によって生産されるものになるまでの「水の征服」の緩慢で複雑なプロセスを、多面的に描いたもの。とても勉強になった。ル=ロワ=ラデュリーの序文も良い。