優生学の歴史

必要があって、教科書の中で優生学の歴史を論じた一章を読む。 文献は、James Moore, "The Fortunes of Eugenics", in Deborah Brunton ed., Medicine Transformed: Health, Disease and Society in Europe 1800-1900 (Manchester: Manchester University Press, 2004), 266-297.

ヨーロッパ各国の優生学を比較して、優生学という複雑な思想運動が、それぞれの国で全く違った形を取ったことを余すことなく示している。 私は専門家ではないけれども、これほど優れた優生学の教科書的な記述は読んだことがない。 ヨーロッパの優生学が、何を共有し、どこが違っていたのかという大枠の図式を示している。 母子衛生に重点があったフランス、男性の性的能力を誇示する方向に進んだのはもちろんイタリア(笑)、ネズミとショウジョウバエの遺伝の実験をすることが優生学だと思っていたソ連、リベラルな政府と強力な国家が優生学を後押ししたスカンディナヴィア諸国、医者たちが熱心に優生学をプロモートして、もっとも邪悪な形をとったナチス・ドイツ。 

私は、この教科書を読んで、初めて優生学が分ったという気になった。これから優生学を習い始めた学生は幸せだとつくづく思う。