バーミンガム市立美術館


バーミンガムに出張して、時間が2時間ほど空いたので、市立美術館に行く。地方都市の美術館ではあるけれども、そこはやはり150年前の世界の産業の中心で、シヴィック・プライドの全盛期を象徴する都市の市立美術館だから、みごたえがある作品がたくさんあった。

時間と相談して、バーン=ジョーンズとラファエロ前派だけにしぼって重点的に見る。前者はバーミンガム出身だそうだ。もともとそんなに好きな作家たちではないけれども、「世界最大のラファエロ前派のコレクション」と連呼されたから、一時的に熱心なファンになることにした(笑)平日の午前中にバーミンガムで絵を見る暇人はいないのか、ギャラリーは私だけで、ほぼ独り占め状態だった。

ウィリアム・ホルマン・ハントという私が苦手な画家がいて、画面いっぱいに細部までどぎつい色で写実的に描きこんだ作品が何枚もあった。周りに人がいないのをいいことに、近づいてみたり部屋の反対から見てみたり、色々な距離から鑑賞してみたけれども、やっぱりこれは私には悪趣味としか思えなかった(笑)これなら、市立科学技術博物館に展示してあるはずの蒸気機関だとか鉄鋼炉だとかのほうが好きになれたかもしれない。

ご存じないかたが多いだろうから説明すると、イギリスの産業革命の歴史学者たちの中には、世界最初の蒸気機関車とかそういったものの前に行くと、興奮して我を忘れる人が多いらしい。人のことばかり言うのは不公平なので白状すると、私もパドヴァの解剖学教室の中に立ったときには、敬虔な思いに打たれました(笑)

帰りに駆け足で通り過ぎたオールド・マスターの中で、ムリーリョの子供のキリストが、「甘あま」といえばそれまでなんだけれども、天上へと続くような不思議な夢のような雰囲気が漂っていて、思わず足を止めた。描かれてからしばらくは一世を風靡して、18世紀イギリスの子供を描いた絵画に影響を与えたらしい。

美術館の中のカフェは、うすよごれてべたべたしたようなベニヤ板のテーブルは頂けなかったけれども、本物の作品の前でコーヒーを飲めるのは滅多に味わえない贅沢だった。