『ハンニバル・ライジング』


出張の間の雑駁な読書の記事の最後。『ハンニバル』シリーズの(目下のところ)最新の作品で、ハンニバルの少年時代、そして医学生時代を描いた『ハンニバル・ライジング』を読む。高見浩訳の新潮文庫で上下二巻本。

リトアニアの貴族レクター家の長男で天才少年だったハンニバルは、第二次大戦の動乱の中で、悪党たちに一家を惨殺され、最愛の妹とともに監禁され、妹は悪党たちに殺されて食べられるという悪夢そのものの経験をするが、その近辺の記憶を思い出すことができないまま成長する。長じて彼はパリの医学生として天才振りを発揮するが、ついに記憶を回復し、家族と妹を殺した悪党たちの所在をつきとめて大活劇の末に復讐を果たすというストーリー。

このシリーズは、『レッド・ドラゴン』、『羊たちの沈黙』といった、ハンニバルが主役になる前の作品のほうが、はるかに面白かったと思うのは私だけだろうか?ハンニバルを取り囲む登場人物たちは、単純なカリカチュアやパロディじみている。その最たるものが、「紫夫人」というばかげた名前の日本女性で、彼女はハンニバルの叔母として登場し、ハンニバルの両親と彼女の夫が死んでからは、ハンニバルの後見人になる。ま、もちろん(笑)、「源氏物語」よろしく、二人は近親相姦的に愛し合うことになるのだが、この彼女も日本女性の神秘的な優美さの具現として描かれていて、正直言って、笑いをこらえるのが難しい(笑)。 

医学生のハンニバルが解剖実習をしたりスケッチをしたりする部分は、かなり書き込まれていて、そのあたりはお医者さんたちに人気があるのかな。あ、この本によれば、解剖実習でさんざん死体をいじった後でも、ホルマリンの臭いは簡単に洗い流すことができるから、医学生のハンニバルは、自分の日本風の趣味よいでテイストで飾られている部屋をいつでも優美に保っていられるそうだけど、これは、私が皆さんから聞いていることとだいぶ違う(笑)。

映画をご覧になった皆さんは、いかがですか? ジョディ・フォスターでないクラリス捜査官にはちょっと失望しましたが、あんそにー・ホプキンスでない役者が演じるハンニバルは、どうでした? 

画像は標本室のハンニバル。