バラの疫学とナメクジの生命倫理

今日は無駄話を書く。これほどの無駄話も珍しいかもしれない。

園芸をしているとやはりナメクジに出くわす。バラの葉やつぼみを食べつくすわけじゃないし、「不快である」というのが主な欠点である害虫だと思っていた。不快であるという理由だけでその生き物を殲滅するのは、良心が少し痛む。人間中心主義の超克だとか、環境倫理とか、ポストモダンとか、そういったことも頭の片隅にある。そんなわけで、私はナメクジに対してかなり寛容な態度を取っていた。

今年のバラに早くも黒星病らしい病気が出てきた。時期的にどうもおかしい。よく観察すると、黒星病の感染経路としてよく言われている土の跳ね返りがありそうな低い位置にある葉ではなくて、ナメクジが少し食べた葉にその病気が出ている。

感染経路を疫学的に考えてみて、ひらめいてしまった。黒星病の媒介生物は、あの不快なナメクジだという説である。姿形からくる偏見を、錬金術のように科学的確信に変える「証拠」など、ウェッブ上で検索すればいくらでも見つけられる(笑)

「黒星病;本病菌は前年発病した枝の病斑や発病した落葉で越冬するが、越冬場所によって越冬後の伝搬の仕方が異なっている。発病枝の病斑では、翌春、病斑上に分生胞子層が形成され、分生胞子で伝染する。その胞子は雨のしぶきや小昆虫の身体に付着して伝搬される。」(島根県農業技術センターのサイトより)

「小昆虫の身体に付着して伝搬される」と書いてあるだけで、復讐の血に飢えたマッドな園芸家には十分だった。姿が不快なナメクジは、取り除かれてしかるべき害悪であり、そいつの陰険な手口は科学によって証明された。その夜行性の生態は卑劣な性格のあらわれだと再解釈された(笑)私はナメクジの殲滅を冷酷に計画した。バラの根元のマルチを全て取り除き、そこに潜んでいたナメクジを殺戮し、そこにナメキールとかその類の毒薬を買ってきて撒いた。ポストモダンも地球環境倫理も人間中心主義の超克も全て忘れていた(笑)。 私はナメクジの殲滅を夢見て、卑劣で不潔で病気をもたらす生き物から解放された将来をバラたちに約束して微笑んだ。「生きるに値しない生命」の殲滅を実践したナチスの医学者たちは、きっとこんな気分だったに違いない(笑)

もしこのブログに植物病理学者か、ナメクジを含めた不快害虫の権利を擁護する活動家がいらっしゃいましたら、非科学的な感染経路を信じ込み、パニックに襲われて、無意味な殺戮行為を犯したマッドな園芸家を糾弾してください(笑)