戦前東京の民衆が受けていた医療

頂いた論文を読む。文献は、中村一成「戦前・戦時の都市民衆と医療-東京市の事例から-」『民衆史研究』75号(2008), 3-18.

医療費支払いに困難を抱える下層民衆と、そもそも医師をはじめとする医療供給に乏しい農村地域の二つを主要な問題として、「民衆が必要としていた医療とは何か」ということを、生活により近い次元で検討することを目的としている。この論文は年の下層民衆を取り上げている。主に東京市における有料・無料・割引がきく医療リソースは相対的にきわめて充実していたこと、近代医療(今の感覚で言うと、保険が効く医療)は、多様な治病行動の一つであったことなど、私が言いたかったことを私よりも的確な表現で言っている箇所も多かった。また、私が知らなかった大きな理論的な枠組みを展開した文献も色々教えていただいた。 

たくさん教わったので、一つだけささやかなお返しに。都市民衆が「必要としていた」医療を分析するというときに、当時の都市下層民はどのような傷病にかかっていたのかという視角は、やはり持っていたほうが良いと思う。疾病構造によっても、医療の需要の内実は大きく変わってくるのだから。