パドヴァの医学

必要があって、16世紀のパドヴァの医学校の歴史を論じた論文を読む。文献は、Bylebyl, Jerome, “The School of Padua: Humanistic Medicine in the Sixteenth Century”, in Charles Webster ed., Health, Medicine, and Mortality in the Sixteenth Century (Cambrdige: Cambridge University Press, 1979), 335-370.

ヴェサリウスの時代のパドヴァ大学の様子がわかる論文がほしくて読んだ。16世紀の人文主義医学が、ガレノスのテキストを研究するブッキッシュな医学であると同時に、事物について直接観察することを重んじる医学であり、臨床教育や植物の収集などの実践的な面に影響を及ぼしていたということを、これほどシンプルかつエレガントにさらりと書いた文献は、私が読んだものの中では(そんなに多くないけれども)随一の記述だった。また、なぜヴェサリウスの時代のパドヴァに学生も人材もヨーロッパ中から集まってきたのかという問いに対して、パドヴァ大学の人事の仕組みが原因として挙げられている。パドヴァ出身の人間は、高位の教授職に就けない仕組みがあったそうだ。色々な謎が解けた。

そういうものすごく水準が高い内容のことが、スプレッツァトゥーラというのかな、仰々しさや博識の誇示を排したスタイルで軽々と書かれていて、その洗練が羨ましい。医学史研究において最も分厚い研究の伝統と蓄積がある領域の第一人者というのは、こういうものなのだろうな。