エイズのミクロ経済学


未読山の中から、アフリカのエイズ流行をミクロ経済学のツールで分析した論文を読む。文献は、Philipson, Tomas and Richard A. Posner, “The Microeconomics of the AIDS Epidemic in Africa”, Population and Development Review, 21(1995), 835-848. このチームがアメリカにおけるエイズ流行を似たような手法で分析した書物は、話題を呼んだらしい。

エイズを予防するにはコンドームをつけることが必要であるということで、アフリカではコンドームの実質価格が高いため、セーフ・セックスが広まりにくい。教育が普及していないので、エイズの感染ルートについて正しい知識を持っていない。もともと平均寿命が短いので、HIVに感染しても、平均寿命が長い社会よりも失うものが小さいため、感染のリスクの重要性が高くない。(一般に「命の値段が安い」と表現されることをミクロ経済学的にいうとこうなるのだろうか。)

エイズを広めているのは異性間の売春だが、売春以外に女性が収入を得る手段が少なく、急成長している都市に男性移民が多いので、売春婦は多い。売春がエイズに罹患する危険を高めるというと、売春の需要が減りそうなものだが、女性が他に仕事がないので、価格を下げるので、リスクによる需要減と、価格低下による需要増が相殺して、結局売春は減らない。

収入が高いと教育程度が上がり、コンドームも手に入れやすくなりそうなものだけれども、高収入のものは都市に住んでおり、男性にとって売春など多数のパートナーとのセックスが安価に提供されているので、結局都市の罹患率は高くなる。一方、都市には男性のほうが多く、女は数が少ないのでバーゲニングパワーを得るから、自らの身を守るために客やそれ以外のパートナーの男性がコンドームを使うよう要求できそうなものだけど、一般的な女性の地位の低さから、そうは要求できないそうだ。

図は、コンドームへの「簡単で安価なアクセス」を持つ人口比率と、HIV陽性率の相関関係。コンドームへの「簡単で安価なアクセス」というのは、WHOが定めている指標で、コンドームを入手するのに、月に二時間以上掛からない(牛に乗って片道1時間半かかる保健所に貰いに行くような人々は除外される)こと、一ヶ月にコンドームに使う費用が月収の1%以下であること、この二つを満たしている人の割合だそうである。