電気痙攣療法の歴史

必要があって、精神医療の電気痙攣療法の歴史の研究書を読む。文献は、Shorter, Edward and David Healy, Shock Therapy: a History of Electroconvulsive Treatment in Mental Illness (New Brunswick, NJ: Rutgers University Press, 2007) 

ショーターとヒーリーの共著で、どちらも精神医療の歴史について沢山の本を書いている(翻訳もある)有名な二人だけど、歴史書としてはあまり期待しないほうがいい。もちろん一定の水準はクリアしていて、安心して読める。リサーチは雑誌論文を中心に充実しているし、アーカイヴも見ているし、インタヴューもしている。記述はわかりやすくて論旨は明快である。けれども、中心メッセージがあまりにも偏っていて、単純でナイーヴに構想されている。一言でいうと、それは、「精神病(特にうつ病)に対する電気ショック療法は、本当はすばらしい治療法だ」というものである。そして、電気ショック療法が、1960・70年代に、精神分析系の医者・心理学者などにより批判を受け、『カッコーの巣の上で』でジャック・ニコルソンを廃人にする野蛮な懲罰というイメージが確立する過程を、事実に反した誤った見解であると批判する。この議論は、それ自体としては、私は特に反感は持たない。しかし、たとえばロボトミーを論じたプレスマンの仕事 (Jack Pressman, The Last Resort)に比べて、あまりに表面的で、あまりに露骨である。ショーターは、これまでも論争的で、白黒をはっきりつける書物を多く書いてきているが、彼と立場を異にする学者でも参考になる重要な洞察があった。この書物には、それがなくて、電気ショック療法の福音を説き、不当に貶められた療法を復活させようという十字軍的な熱狂だけが伝わってくる。

そのナイーヴさを我慢できるなら、あるいはそれに共感できるなら、この書物はとてもよい書物である。電気ショック療法のアメリカでの広がりと失墜を丁寧にたどり、随所にベテランの医学史研究者ならではの洞察がある。