日本の象皮病

先日江戸時代の日本でフィラリアが流行ったとどこかで書かれているのを見つけて、意外に思ってちょっと調べてみたら、疑問は解決しなかったけれども、それとは別に面白い話題があった。文献は、松下順二・吉永福太郎・帖佐彦四郎「象皮病原因及び予防法第一回報告」『日本医学雑誌』3(1911), 1760-1762; 吉永福太郎「八丈島に於ける象皮病の原因に就いて」『京都医学雑誌』8(1911), no.1. 4-6; 吉永福太郎「三たび象皮病の原因について」『京都医学雑誌』9, no.1 (1912), 6-7.

教科書的に言うと、フィラリアと象皮病の関係を発見したのは、1880年にイギリスのマンソンが中国のアモイで象皮病の患者にフィラリア原虫を見出したのが契機である。マンソン自身がどの程度のことを言ったのかは調べなければならないが、これを「象皮病の原因はフィラリアである」と、両者の間に直線的な因果関係があるように解釈した医者たちがいたのはうなずける。私が読んだ三篇の論文は、すべて同じ京都のチームが書いているもので、種子島、八丈島、熊本や島根などで調査をして、象皮病の患者の血液を検査してもマンソンが言うようなフィラリア原虫が見つからないことを主張し、また、象皮病の患者は「丹毒様発作」と彼らが呼ぶものを経験しており、皮膚からは連鎖球菌が見つかり、これを純粋培養して患者に接種すると丹毒様発作が再現されることを確認した。ここから、マンソンは誤っており、象皮病の原因は連鎖球菌であると彼らは主張した。 

このあたりは「何が病気の原因なのか」という問題は実は非常に複雑であることに日本の医者や細菌学者たちが気がついていく過程を示すのにいいエピソードなんだろうな。

画像を病名で検索すると、グロテスクなものが色々出てくる。特に、男性の生殖器が腫れて巨大化したものは、医学というより猟奇的な興味の対象になっている。実際、医学写真を猟奇的な興味で集めて美術系の出版社が出した書物を書評したことがあって、何か疑問のようなものを感じている。きっと、これまで、「気持ち悪い」写真などをこのブログで出したこともあると思うけれども、今回はわざわざ出す必要はまったくないし、控えておきます。