17世紀のオバサン改造風車



未読山の中から、初期近代イギリスの都市の・・・なんていうのかな、「迷惑なもの」とでもいうのかな・・・まあ、そういうものの研究書に目を通す。文献は、Cockayne, Emily, Hubbub: Filth, Noise and Stench in England 1600-1770 (New Haven: Yale University Press, 2007).

醜いもの、かゆくていらいらするもの、かびくさいもの、うるさいもの・・・というタイトルの章が続いて、17世紀から18世紀の都市生活の不快なものを微に入り細をうがって記した書物。構造的・分析的な話はほとんどないけれども、膨大で多様な資料から掘り出されてきたエピソードが上手に処理されて、次々と、そして延々と語られる。話や授業に色を添えるエピソードが欲しいときには、必ず楽しい話がある、そんな本である。

その資料から面白いものを二つ。ひとつは獣面の酔っ払いたち。酔うといろいろな動物のようなさまを見せる、酔っ払い百面相のような趣向で、似たものは日本にもありそうな気がする。もうひとつは、老悪妻改造風車とでもいえる空想上の機械。年をとって、みっともなく、しわだらけで、気難しいがみがみやになった妻を、手押し車にのせて風車小屋にもっていって、風車にしばりつけたり臼でひいたりしてもらうと、若く美しい女性に改造されて、夫婦は美しく着飾った幸福なカップルになって(左下)出て行くというもの。クラナッハの若返りの泉と同じ趣向だけれども、こちらは、若返りへの憧れというより、かなりクルードなミソジニスト・ファンタジーというべき。