帝国主義時代の「緑の思想」

未読山の中から、ヨーロッパの帝国主義的拡大が20世紀以前の環境保全思想の形成に果たした役割を論じた書物(のごく一部)を読む。文献は、Grove, Richard H., Green Imperialism: Colonial Expansion, Tropical Island Edens and the Origins of Environmentalism, 1600-1860 (Cambridge: Cambridge University Press, 1995)

色々な本に目を通すけれども、最初の数ページで、この本は、自分の専門とは直接関係ないけれども、襟を正して丁寧に読まなければならないと感じる書物はそれほど多くない。この書物はまさにそういう一冊である。イントロダクションを読んで、広く緻密なリサーチと壮大な構想に基づいて、考え抜いた概念装置を使って書かれた大著であることがすぐにわかった。いま、丁寧に読んでいる時間が到底ないのが口惜しい。

話としては、環境思想が形をとって発展したのはごく最近のことだと信じられ、そういう信念のもとに私たちは行動しているが、これは時代錯誤と無知であって、17世紀にまでさかのぼれること。これには、ヨーロッパ人が進出した結果、環境破壊が起きた地域などの植民地科学者たちが貢献したこと。ヨーロッパの進出を受けた地域の現実だけでなく、そこに存在した思想との出会いもこの「初期帝国主義の緑の思想」の形成に重要な役割を果たしたこと。そして、ヨーロッパの思想の骨格であるキリスト教思想と古典古代の哲学に存在する、「エデンの庭」と「理想の島」のトポスが、初期帝国主義の緑の思想の形成のマトリクスになったこと。

この書物自体は500ページを越す本だけど、これだけの巨大なテーゼをすらすらとイントロダクションで書かれると、これは腰を据えて読まなければならない本だと認めないわけにいかない。今度の出張に持っていって、飛行機の中で読みふけろう。