健康の社会的決定要因

必要があって、WHOが今年の夏に出した「健康の社会的決定要因に関する報告書」を読む。文献は、Commission on Social Determinats of Health, Closing the Gap in a Generation (Geneva: WHO, 2008).

A4で二段組250ページの大著だけれども、国際保健や公衆衛生の専門家ではなく、私のような当該問題に関する非専門家を念頭において、細かい分析や議論というよりは、わかりやすいパンチラインで現在の問題と将来の目標と行動原理を記した、印象深い報告である。サイトのトップページでも引用されていたが、「(社会的)不公平は、世界の人々を大規模に殺戮している」とか、「30年で、健康の不公平をなくすことができるだろうか?今のままの世界の構造が続くなら、それは不可能である。もし、人々が変化を欲するのであれば、われわれが相当な前進をすることができる」といったような、高邁な理想の実現に向かって、人々を奮い立たせる殺し文句が随所にちりばめられている。こういう「国連節」の繰り返しがちょっと多かったけれども、知らない話ばかりだったし、楽しく読んだ。

疾病や死亡の直接の原因そのものでなく、「原因の原因」(the causes of the causes) という言い方をしているが、そういった原因が世界に不公平にいきわたっている構造を取り上げて、その不公平を正すために何ができるかというスタンスを取っている。というと、世界革命を起こすかのようだけれども、そこはWHOのことだから(笑)、政治、経済、金融、市民社会、普遍的なヘルスケア、ジェンダーなど、いくつかの柱にわけて、それぞれの領域に関するヴィジョンをわかりやすく説明している。つまり、医療や健康をもっとも広い文脈の中において、その文脈を分節化したうえで、それぞれの文脈での目標と行動計画を明確にした、包括性とある程度の具体性を持っている報告書になっている。

この報告書は、以下のサイトからダウンロードできます。
http://www.who.int/social_determinants/en/