パラケルスス医学

必要があって、医学史の泰斗による、パラケルスス派とそれをめぐる批判を論じた書物を読む。文献は、Pagel, Walter, The Smiling Spleen: Paracelsianism in Storm and Stress (Basel: S. Karger, 1984). 

パーゲルの一連の書物の中では、以外に一般には知られていない書物なのだろうか。私は知らなかったし、読んでみて、こんな便利な本があったのかと感心した。最初はパラケルスス本人の人生と思想のまとめだけれども、次の章はパラケルスス派の医者たちの書物から重要な論点を要約していて、これがとても役に立った。パーゲルの時代の医学史らしい、テクニカル・グラスプを重んじて、それぞれの論者のテクニカルな議論の流れがそのまま要約されている部分が多い。(これは、この書物は、未完の草稿をパーゲル夫人がまとめたものであるということと関係あるのかもしれない。)たとえば、パラケルスス派が、ガレノスを激しく攻撃したのに対し、ガレノス自身が師と仰いだヒポクラテスにはむしろ敬意を払った事情だとか、化学的に薬品を調合するとはどういうことか、といった、テクニカルな議論を知っておきたいことが要領よく説明されている。

その中で、医師は神に召された職業であるという考えが説明されている部分について。

神の命令に背いたことが、人類に病気をもたらした。その病気を治す方法(医術)と物質(薬)を創造したことは、罪深き人類に神が与えた無限の慈悲深さをあらわす。だから、医術とは、自然の中に隠された力を見出し、それを調整することである。つまり、医者は、神の慈悲深さを人間に伝え通訳するメッセンジャーなのである。