アフリカの植民地医学

必要があって、アフリカの植民地医学の歴史研究に大きな影響を与えている書物を読む。文献は、Vaughan, Megan, Curing Their Ills: Cononial Power and African Illness (Oxford: Polity Press, 1991).

私自身が、同業者を相手にした論文を書くときの対象地域はイギリスと日本だから、たぶん「専門はイギリスと日本」ということになるのだと思う。それにとらわれないで、色々な地域の医学と病気の歴史を勉強するようにはしているけれども、インドやアフリカといった地域のいわゆる「植民地医学」の歴史研究は、「他所の地域」という印象を持ってしまい、すごく有名な本でも読んでいないものが多い。この本もその一冊で、よく引用されているのを見たけれども、読んでいなかった。

理論的なイントロダクションにあたる部分を読んで、確かに有名になるのに値する優れた書物だと思う。ミシェル・フーコーに影響されて進展した、近代の西洋におけるバイオパワーの知/権力の歴史と対照させて、同時期のアフリカの植民地医学を理解しようという視点である。これは、ヨーロッパ・アメリカ(そして、おそらく、後には日本)と、それらの国家が植民地とした地域を、一つの枠組みで理解することを可能にする大きな可能性を持ったスリリングな視点である。ある程度予想はされることだが、フーコーのいうところの、主体を構成する権力のあり方とは大きく違うあり方が植民地にとっては重要だったこと、そして、植民地においては、個人化(individualization)ではなく、「単位化」 (unitization)が、大きな影響を与えたことを論じている。「単位化」というのは、収税や人口把握のために、それぞれの部族ごとに個人を数える行為で、これは主体化した個人を作り出すための装置ではなく、グループ化させるための行為であった。

もう一つが、しばらく前にも取り上げたギルマンの「差異化・他者化」のモデルに代わるものというか、それを発展させたもので、他者とされた人々、ネガティヴな不安と恐怖を投影して結晶化させてモノとして構成された人々が、その状態をどう経験するかという、フランツ・ファノンと同じような視点である。これも、ダイナミックで面白い視点で、少なくとも私は、自分が考えようとしてきた問題をこう表現すればよかったのかという共感を持った。