イギリスの検疫の歴史

必要があって、イギリスの検疫の歴史の大著を読む。文献は、Booker, John, Maritime Quarantine: the British Experience, c.1650-1900 (Aldershot: Ashgate, 2007).

620ページもある分厚い本。前半の章しかまだ読んでいないけれども、イギリスの検疫の歴史についてのきちんとしたまとまった研究書としては最初のもので、イギリス国内(スコットランドとアイルランドを含む)と、地中海のイギリス領(ジブラルタル、ミノルカ、マルタ)の古文書館を調べまくって、検疫行政の現実を調べ上げ、それを丁寧に記した堅実な書物。基本的に、検疫行政を論じた行政史の本で、これから、長く参照され続ける本だろう。とにかく事実がたくさん書いてあって、とても役に立つ。

17世紀のロンドンの大ペストにおける検疫の原型のようなものからはじまって、18世紀初頭のバルト海沿岸諸国のペストの流行が、その地域との貿易が盛んだったイギリスで、1710年の最初の検疫法の検疫法にいたったこと、この検疫法は、ロンドンを中心とするイギリスの貿易港にきた船を回航させて停泊所にやってそこで通常は40日(これは変動した)停泊させ、積荷を消毒するという仕組みだったこと、などが細かく書いてある。イギリスは日本と同じように四方を海に囲まれているから検疫が簡単だったように思われるけれども、実務上は非常に困難だったことを強調している。