優生学のレヴュー2

必要があって、優生学の歴史研究を批判的にレヴューした論文を読む。文献は、Pauly, Philip J., “Essay Review: the Eugenics Industry – Growth or Restructuring?”, Journal of the History of Biology, 26(1993), 131-145.

このレヴューは、スティーヴン・グールド(1981年)やダニエル・ケルヴス(1985年)、ロバート・プロクター(1988年)らが、イギリス・アメリカそしてドイツに関する優生学(人種衛生学)の歴史研究を発表してから、第一世代に続く研究が続々と現れた時期の研究状況を鳥瞰したものである。英米やドイツ以外の研究が進み、優生学の国際性が明らかになり、国によって大きな違いがあることが分かってきた時期だけれども、この論文は、ただ単に国際的な多様性を指摘してよしとするだけではなく、もっと本質的な部分に切り込んでいこうという果敢さが随所に感じられる優れたレヴューである。

重要なポイントは、どんな人々が、何のために優生学を担ったかという問題である。フランスは臨床家が主たる担い手になったが、ドイツではアカデミックな医者たち、あるいはそれに親和性を持つ医者たちが担った。アメリカでは多様な人々がゆるく結合し、イギリスでは生物学と社会改革を結び付けようとするエリートの改革家たちが担っていた。

もうひとつ、当時の優生学の歴史研究の基本的な構造を鋭く指摘している部分がある。研究者たちは、歴史の中から、現在の我々に教訓を与えるような部分を取り出して、それを優生学の歴史と呼ぶ傾向があり、それが研究の構造を作っているという。これは、優生学の歴史研究を研究者や学生や一般の人々に魅力的にすると同時に、優生学とは何だったのかという問題に関して、不完全な像しか描けなくしているという。