労働医学の歴史

必要があって、19世紀以降の労働医学の歴史を概観した論文を読み返す。文献は、Sturdy, Steven, “The Industrial Body”, in Roger Cooter and John Pickstone eds., Companion to Medicine in the Twentieth Century (London: Routledge, 2000), 217-234. 何回か読んでいるが、読むたびに必要に答えてくれるすぐれた記述で、とても重宝している。

全体としては、19世紀以降、労働の医学は四つのモデルを経験したという記述。1) 19世紀の、労働現場の災害・事故と疾病を予防しようとする医学、2) 20世紀の初頭の、労働者の身体の生理学的研究を通じて、作業効率を最大化しようとする医学、3) 20世紀中葉の、福祉国家の中で労働者の疾病を治療して労働の現場に帰ることができるようにする医学、4) 20世紀後期の、情報処理と、新しい作業内容への急速な適応を研究する医学。この過程には、それぞれに、1) 労働者の身体という資本を、欧米列強の競争の中での国力の源だと考える思想、2) 総力戦としての第一次世界大戦において、社会のあらゆる部分が合理化・組織化され、最も効率がよい仕方で利用される方法が研究されたこと、3) 福祉国家の建設と、労働者が雇用されていることが内需と消費の下支えになるという思想、4) 免疫学やコンピューターサイエンスにおいて顕著な、「情報と認識と適応」というモデルが、人体と外界を理解するツールになったこと、という背景がある。