医学史アンソロジー

しばらく前に、知人から、亡くなったお父さまの蔵書をいただいたことがある。彼のお父様は開業医であったけれども、医学史に興味をもっていて書物を買い集め、ご自分でも何か調べておられたとのこと。その蔵書の中の一冊に目を通す機会があったので、記事にする。文献は、Clendening, Logan ed., Source Book of Medical History (New York: Dover Publications, 1960).

医学史のアンソロジー。エジプトのパピルスからレントゲンによるX線の発見まで、古典的な論文や著書からの抜粋が、全部で124点収められている。この本の初版は1942年で、その時代のことだから、「医者たちの発見によって医療が進歩した」というメッセージがダイレクトに込められているテキストの選択になっている。今では医学史の研究者の間では流行っていない史観であるし、医療の歴史的な変化の表面的な部分しか捉えていないことは事実であるが、それはそれで、間違いというわけではない。私がこの選集でしか読んだことがないテキストもたくさんあるし、授業の準備の時にはとても便利である。例えば、ラマッツィーニの陶工の鉛中毒の話なんて、この選集でしか読んだことがない(笑) 

それよりもなによりも、私にとっては、私の祖父くらいの年齢にあたる、お会いしたこともない医学史の愛好家のことを思って開く本である。