日本の心理学

必要があって、日本の心理学の通史をチェックする。文献は、佐藤達哉・溝口元編著『通史 日本の心理学』(京都:北大路書房、1997)

日本における心理学の歴史研究を「トラック(軌道)に乗せた」一冊である。ある学問分野が成長する前には、こういった書物が書かれるのだろうなと思う。明治以降の日本の「心理学」の歴史について、沢山の事実を掘り起こし、それらを魅力的に提示する。流行の方法論・奇を衒った視点・小ざかしい分析にはあまり色目を使わない。記述はベーシックでとても分かりやすい。必ずしも「教科書」を意図されたのではないと思うけれども、この書物はきっと多くの学者に重宝して使われていると思う。

東京女子高等師範学校(いまのお茶の水大学)の教授であった古川竹二が1927年に発表して以来、活発な論争の対象になっていた血液型気質相関説(ABO式の血液型で性格がわかる)についての解説が一番丁寧で細かい記述で、これも面白かったけれども、今回必要だったのは、満州や朝鮮・台湾・中国などで行われた心理検査の話である。満鉄教育研究所の石川七五三二(いしかわ・しめじ)は、1935年から36年にかけて満州国在住の日本の児童の知能検査を行い、その結果を雑誌上の発表している。かなり大掛かりなものらしい。その調査によると、満州に在住している児童は、内地の大都市の児童よりも知能が優越していたそうである。また、ほぼ同じころ、東京高等師範学校の田中寛一は、朝鮮、満州、台湾、中国などの日本の植民地や勢力圏のほかの民族と日本の児童の知能を検査し、また、ホノルル、サンフランシスコ、ロサンゼルスの三都市に在住する諸民族の知能を検査した。これは、色々なバイアスがあるだろうけれども、出てきた結果は、もちろん、日本民族が一番優秀だったというものだった。この時期は、特に前者の例が示すように、移民の知能など精神を測定することが一つの流行だったのだろうか。