爆発する閉経女性(笑)

必要があって、更年期の歴史書を読む。文献は、Foxcroft, Louise, Hot Flushes, Cold Science: a History of the Modern Menopause (London: Granta Publication, 2009).

この書物は一般向けに書かれた本だけれども、著者はケンブリッジの医学史の博士号を持つプロの研究者で、ヒポクラテスから現代までの閉経期の女性についての記述を山ほど集めて上手に配列している。閉経期の女性が経験する色々な症状が医学的に認識されるのが18世紀で、19世紀にはそれがひとまとまりのものとして緩やかに概念化されてある種の病気になり、20世紀にホルモン療法の対象になる過程が、広範なリサーチに基づいて拾い上げられた非常にカラフルな素材を上手に用いて語られている。一方、それらの医学的な言説と並行して存在し、その基礎となっていた文化の中の女性蔑視、特に出産の能力を失い性的な魅力を失った女性へのミソジニーと関連付けられる。歴史的な概念装置と、医学と文化の結びつきの部分では、特に目新しいことは何も言っていないように見えるし、どちらかというと一世代前のフェミニズムと科学の荒っぽい議論を感じさせる。

しかし、そのマテリアルは多様で豊かであり、それはそれは面白い。色々あるけれども、一番面白かったのを一つあげるとしたら、年を取って愛されなくなり欲求不満になって、その欲望を酒でまぎらわせている老婆は「自然爆発」して木っ端微塵に砕け散るという、事実に基づいていると称しているが(30近くの症例を集めたという)、19世紀にはまじめに論じられた学説だった。人間が自然に爆発するという話は、ディケンズが『荒涼館』で使っていて有名だけれども、それが欲望にさいなまれる老婆への敵意に基づいていたというのは知らなかった。 このくだりの部分だけでも、この本は読む価値がありますよ(笑)