漢の時代の中国医学

必要があって、古代中国の医学についての論文を読む。文献は、Needham, Joseph, and Lu Gwei-Djen, “Hygiene and Preventive Medicine in Ancient China”, Journal of the History of Medicine and Allied Sciences, (1962), 429-478.

20世紀の後半に中国の科学・技術・医学の歴史を超人的なエネルギーで研究したニーダムの論文。漢の時代の医学における予防思想を論じたこの論文も、テキストを正確にばりばりと読むというニーダムのエネルギーが満ち溢れている。

儒教は秩序を重んじるから、予防を高く評価し、道教も自然との調和をはかって養生を唱えたから、中国医学は治療よりも予防を重んじて、予防する医者を高く評価する言葉がたくさんあった。道教の影響を受けた地誌(山海経)も、各地で入手できる薬材を記述しているが、それも予防を重んじている。なお、この中で疫病を避ける薬材が7点記されているのに対し、害を及ぼす情念を抑えるものは33点も記されているところが、精神的な純化を重んじた道教にふさわしい。あとは、料理だとか水だとか、色々な主題にわたって、予防を重んじた中国医学のテキストを紹介している。狂犬病対策として、『備急千金要法』なるテキストは、杖をもって歩いて犬が着たら追い払うようにと書いているそうだ。