『雑兵物語』

必要があって、江戸時代初期に成立した『雑兵物語』を読む。中村通夫・湯沢幸吉郎校訂の岩波文庫版。

鉄砲足軽や鑓足軽といった、戦国時代以来の戦で活躍した兵士(雑兵)たちが、互いに話をするという形式で、戦場での心得などを語った物語で、ある種の兵法書。著者やテキストの成立については、岩波文庫で解説されているが、私などに説明できるような簡単なものではない(笑)戦場の衛生についていろいろ断片が書いてあったので、それをメモする。

息が切れたら、まず「打飼」の底に入れた梅干を見ろ。食べるのはもってのほかで、なめてもいけない。(もちろんこれは条件反射の原理で(笑)、梅干を見るだけで唾液がでてのどが湿るからである。)それでも喉が渇くなら、死人の血でも飲むか、どろを入れた水の上澄みでもすすっているのがいい。梅干は眺めるだけだから一つでいいが、胡椒粒はたくさん必要である。夏も冬も朝一粒ずつかじると、冷にも熱にもあてられない。これはかじるから、在陣中、日数分は必要になる。それから、唐辛子をつぶして尻から足の先まで塗ると、凍えない。手に塗ってもいいが、その手で目をこすると大変なことになるから気をつけろ。(29)

敵地の略奪の仕方、食料の調達の仕方を論じている箇所がある。荷物をからげる縄は、芋の茎などを使って作ると、いざというときに、汁の実にすることができる。そういうわけで、陣中は飢えている。敵地に入ったら、何でも手につくものは拾って分捕って来い。逃げた相手は米や着物を地面に埋めておくものだが、埋めた箇所を知るには、霜が降りていないところを探すといい。しかし、敵地の井戸の水は飲んではいけない。逃げた相手が井戸の底に糞を入れるからである。水は川の水を飲め。それでも、国が換わると水にあてられるから、杏仁をもってきて、それを絹につつんだものをいれた水ならばあたらない。あるいは、本国のたにしを陰干しにしてもってきて鍋に入れたものの上澄みを飲んでもよい。 78-80

外科の薬箱もちをしていたから、外科(金創)のことは知っている。傷がうずくときには、自分の小便を飲むといい。あるいは、小便をためて、冷やして、あとから暖めて使うと、傷の痛みはやわらぐ。95-6

手負っても、水や湯を飲むな。「血が胴に落ちる」からである。葦毛の馬の糞を水にたてて食らうと、「胴に落ちた血が下りて」傷も早く癒える。葦毛の馬の血を飲んでもよい。だから、陣中に連れて行く馬は葦毛に限る。 97