イエズス会士が見た「悪魔」

必要があって、イエズス会の日本報告を読む。文献は、『16・17世紀イエズス会日本報告』松田毅一監訳(京都:同朋社、1987-)

16世紀中葉から17世紀のイエズス会士が、日本における布教の様子を書き送った報告書の全訳。キリスト教の信徒の獲得、教会や学校の設立など、布教の成功が語られるとともに、仏教僧との確執、秀吉やキリシタン大名たちの様子、布教した民衆の観察などが生き生きと記されている。原文はラテン語やポルトガル語などで、この翻訳のおかげでどれだけ多くの研究者がこの貴重な資料を安心して使うことができるようになったことだろう。

本来は疫病についての記述を探していて、その方面でいくつかの面白い記述もあったけれども、出てくる疾病-というべきだろうか-の出現頻度でいうと、間違いなく抜群のNo.1 は、イエズス会士たちがいうところの「悪魔つき」である。これは、別の文献では日本人が「狐つき」と呼んでいるものだと記されているし、前田利家の娘についた「悪魔・狐」は、「私は岡山の稲荷である」と名乗っているそうだから、狐つきが問題になっていることは間違いない。

これもイエズス会士が書いていることだから、当たり前といえば当たり前だけれども、仏教僧たちはこの「悪魔つき」を治療することができない。特にイエズス会士たちは「山伏」に強烈な敵意を持っていて、憑いた狐を山伏たちが追い出せないのを嬉しそうに記している。そして、悪魔を落とすことができるのは、もちろん、キリスト教のパワーである。たとえば聖遺物や聖水が霊験あらたかであるそうだ。有馬から1/4レグワほど離れた須川という地では、ある娘に悪魔がとりついて、十字架を彼女の頭にかざしたら、悪魔が苦しがって、人々がみなキリシタンになって俺に背を向けるのだ、といって去っていったという。