江戸の医薬

必要があって、三好一光『江戸生業物価事典』(東京:青蛙房、2002)をチェックする。

もともとは1960年に出版された本だけれども、江戸ブームで復刻された。「医薬編」が、江戸時代から明治にかけての売薬などを事典形式で説明していて重宝で、時々使っている。薬としては、梅毒の薬、精力剤、媚薬など、性に関係するものが多く取られている。強精剤のおっとせいの薬、交合中のイモリを引き離して酒につけて飲むイモリ酒(・・・正直、かなり気色悪い)、おろし薬(堕胎剤)、それから、露骨な名前だけれども、媚薬・性交補助剤の「女悦丸」とか、「立たせる」ための「帆柱丸」だとか、その手の薬が多く引かれている。これは、もちろん、編者が遊郭を題材にした作品や遊び人を主人公にした文芸作品などの資料を中心に項目を収集したということもあるのだろうけれども、遊郭と性病は、本当に、江戸の医療市場を牽引する役割をになっていたのかな。「女悦丸」だとか「帆柱丸」などを売っているものたちは、さすがに「儒医」を名乗りはしなかったと思うけれども、儒学者たちが、「儒と医は同じである」という説に強い不快感を示したというのは、わからないでもない。

関係ない話を一つ。料理の「南蛮漬け」とか「南蛮煮」の「南蛮」ってなんだろうという疑問をずっと持っているけれども、この書物をめくっていたら、面白い語呂合わせの説明があった。南蛮は、中国(唐)よりもはるか先にある国で、「唐(から)を過ぎて」いかなければならない。だから、「辛すぎる」もの、具体的には唐辛子・ねぎなどを使った料理を言うとあった。