永井潜のバースコントロール

ついでにもう一つ、生殖関係の資料を読む。こちらは有名な永井潜の論文。永井潜「産児制限論の批判」(1)-(9) 『日本之医界』19(1929), no.7, 41-42; no.8, 41-42; no.9, 41-42; no.10, 41-42; mp.11, 45-46; no.12, 41; no.13, 42-43; no.14, 42-43; no.15, 42-43.

永井潜は生理学者で東大教授などを歴任。性科学やバースコントロールまで守備範囲を広げ、幾多の書物を書いて論壇で派手に活躍したからとても有名。

この論文で憶えておきたいポイントは二つ。一つが、人口の量と質についての学問を進化論と結び付けて、世界の諸国が、兵器ではなくて、民族の量・質を通じた争いをしているというヴィジョンを描いたこと。これは、生殖を帝国主義的な争いの中に組み込んだ。そして、その争いというのは、有限な資源を、ますますその数を増していく諸民族が奪いあうというものだった。もう一つは、現在の産児調節は、上流階級とインテリゲンチアの利己的・享楽的なものであり、優秀な子孫を減らして民族の質を下げるとして永井は反対するが、その一方で労働者階級は出生を少なくするべきであると説いている。そして、その背後には、マルサスのいう禁欲(モラル・レストレイント)は不可能であるとしている。