アメリカ軍の赤痢

新着雑誌に目を通していたら、たまたま軍隊の赤痢の記事があったので、喜んで読む。文献は、Cirillo, Vincent J., ‘“More Fatal than Power and Shot”: Dysentery in the U.S. Army during the Mexican War, 1846-48”, Perspectives in Biology and Medicine, 52(2009), 400-413.

19世紀の後半まで、戦陣の死者は、直接戦闘によるものよりも、戦陣や兵営で流行した感染症によるもののほうが多かったというのは有名である。1846-48年の、アメリカとメキシコが戦った米墨戦争は、アメリカの戦争の中でも、最も疾病に苦しめられたものだった。アメリカ軍は、約8万5千人の兵士を動員して、死者は1万2500人、そのうち1万1000人が病気で死んだというから、死者の88%は戦闘とは直接の関係がない病気によるものだったことになる。

当時の軍陣病院の記録などを見ると、患者の90%は下痢の症状を訴えていて、このうちのかなりの部分が赤痢であった。急性のものもあったし、慢性のものもあった。赤痢が流行する衛生状態というのは、決して褒められたものではないが、アメリカの戦陣も、便所の不備、下水を流している川からそのまま飲料水を取る、牛の糞が落ちている泉の水を飲む、そしてハエが多くて、手術のあとには蛆虫がわくなどの、ホラーストーリーが伝えられている。

これから100年後にGHQが日本を占領したとき、日本では赤痢が蔓延している、それどころか、エキリ(疫痢)といわれる西洋医学が知らないなぞの病気がはやっていると聞いたときに、彼らが何を思い浮かべたか、なんとなく想像できる。